あくびはなぜうつる?「共感のサイン」説はまだ決着していない
あくびがうつるのは「共感の力」だと、よく説明されます。ただし、この説はまだ証明されていません。
仲がいい相手ほどうつるという研究がある一方で、共感との関係を見つけられなかった研究もあるからです。うつるあくびの正体は、いまも未解決の問題です。
誰かのあくびを見ると、つられて自分も出てしまう。眠くもないのに出ることさえあります。
この現象は人間だけのものではありません。チンパンジー、イヌ、オオカミでも同じことが確認されていて、研究者が何十年も追いかけてきたテーマです。
見なくても、聞くだけ・読むだけでうつる
うつるあくびは、相手の姿を見ていなくても起きます。あくびの音を聞いただけでも起きますし、あくびについての文章を読むだけでも起きます。
実験の再現性も高く、デューク大学が328人にあくびの動画を3分間見せたところ、222人が少なくとも1回はあくびをしました。この記事を読みながら、すでに一度出た人もいるはずです。
根拠とされてきた「仲がいい相手ほどうつる」
共感説の柱になってきたのが、2011年にノルシャとパラジが発表した観察研究です。2人は1年かけて、職場や食卓といった日常の場面で109人のあくびを記録しました。
うつる割合は家族が最も高く、次いで友人、知人、見知らぬ人の順に下がりました。反応までの時間も、親しい相手ほど短くなっています。性別や国籍では、この差を説明できませんでした。
共感との関係が見つからなかった研究
ところが2014年、デューク大学のチームが328人の共感力・知能・眠気・体内リズムを測って比べたところ、共感力とあくびの伝染に強い関係は見つかりませんでした。唯一意味を持ったのは年齢で、年をとるほどうつりにくくなる傾向です。
しかも年齢で説明できるのは、個人差のわずか8パーセントでした。残りの9割以上は、理由が分かっていません。
いまの結論は「未解決」
2017年、マッセンとギャラップがそれまでの研究を総ざらいして検証しました。結論は、共感とあくびの伝染を結びつける証拠は一貫しておらず、まだ結論を出せない、というものです。
相手をどれだけ見ているかという視線の量や、人前であくびを我慢する気持ちなど、結果を左右する要素が多すぎることも指摘されました。「あくびがうつる人は共感力が高い」という話は、いまのところ俗説です。
そもそも、なぜあくびが出るのか
あくびそのものの目的にも定説はありません。有力な候補は「脳を冷やしている」という説です。
ギャラップらが2007年に行った実験では、あくびの映像を見せたとき、口で呼吸した人の48パーセントがあくびをしたのに対し、鼻だけで呼吸した人は1人もあくびをしませんでした。額を冷たいパックで冷やした場合も、あくびをした人は9パーセントまで減っています。
脳が別の方法で冷えていれば、あくびは要らないという解釈です。
あくびがうつっても、それはあなたの優しさの証明にはなりません。かわりに、まだ誰も説明できていない現象に自分の体が参加している、ということです。
次に誰かのあくびがうつったら、何秒で出たかを数えてみてください。相手が家族のときと、初対面の人のときとで、差が出るかどうか。それを確かめるのは、あなたにもできます。
参考にした資料