国旗に描かれている建物アンコール・ワットとは
アンコール・ワットは、カンボジア北西部に建つ世界最大級の宗教建築です。12世紀前半、クメール王朝の王スーリヤヴァルマン2世が造らせました。
ヒンドゥー教の寺院として生まれ、のちに仏教の寺院として使われるようになります。そして今も、カンボジアの国旗の中央に描かれ続けています。
1113年に始まった大工事
建設が始まったのは1113年ごろです。スーリヤヴァルマン2世の命令で、およそ30年をかけて完成したと考えられています。
積み上げられた砂岩のブロックは500万個から1000万個。北東へおよそ40キロ離れたクーレン山から運ばれました。
重機のない時代に、これだけの石を動かしたことになります。
寺院の敷地は162.6ヘクタール。周囲は幅190メートルの水堀に囲まれ、その一周は5キロを超えます。
外壁は1024メートル×802メートルの長方形です。中央にそびえる塔の高さは65メートルで、ヒンドゥー教の聖なる山「メール山」を表しています。
1992年には、アンコールの遺跡群としてユネスコの世界遺産に登録されました。
ヒンドゥー教から仏教へ
もともとはヒンドゥー教の神ヴィシュヌにささげられた寺院でした。それが13世紀の終わりごろから仏教の寺院として使われるようになり、仏像が加えられていきます。
信仰は変わりましたが、建物は壊されませんでした。アンコールの寺院の多くが森に埋もれたあとも、アンコール・ワットだけは完全に放棄されたことがありません。人が祈りに通い続けたからです。
なぜ西を向いているのか
クメールの寺院は、ふつう正面が東を向きます。ところがアンコール・ワットの正面は西向きです。
理由ははっきりしていません。研究者からは、スーリヤヴァルマン2世が自分の墓を兼ねる寺院として造らせたという説と、ヴィシュヌ神が西と結びつけられているためという説が出されています。どちらも決着はついていません。
国旗に描かれた三つの塔
今のカンボジア国旗は、青・赤・青の三本の帯の中央に、白いアンコール・ワットを置いた図案です。実際の塔は5本ですが、旗には正面から見える3本が描かれています。
国旗にアンコール・ワットが登場したのは1863年の最初の旗から。1948年に今の図案になり、1970年にいったん姿を消したあと、1993年の王政復活とともに戻りました。
「建物が描かれた国旗は世界で唯一」は俗説
カンボジアの国旗は「建物が描かれた世界で唯一の国旗」と紹介されることがあります。これは正確ではありません。
ポルトガル、スペイン、サンマリノの国旗にも、紋章の中に城や塔が描かれています。ただし、実在する建物ひとつを旗の主役として中央に大きく置いた例となると、やはり数えるほどしかありません。
着工から900年あまり。信仰の形も国の名前も変わりましたが、五つの塔はそこに立ち続けています。
カンボジアの国旗を見かけたら、中央の塔を数えてみてください。3本描かれている理由が、すぐに思い出せるはずです。
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