バナナはなぜ曲がっているのか 房のでき方からたどる
バナナのカーブは、下を向いて生まれた実が、太陽の光のほうへ向かって上へ反り返っていった跡です。房そのものは重みで下に垂れたまま、実の一本一本だけが上を向く。
日本バナナ輸入組合の解説もそう説明しています。ただし「なぜ曲がるのか」という仕組みのほうは、まだ決着がついていません。房のでき方から順にたどり、種がない理由や、緑のまま日本に届く理由までまとめます。
バナナは木ではなく草
まず前提から。バナナは高さ2〜10メートルまで育ちますが、木ではありません。
多年生の草です。幹に見える太い部分は仮茎(かけい)と呼ばれ、やわらかい葉の根もとが何重にも重なってできています。
硬い木質の幹はどこにもありません。畑に植え付けてから半年ほどで、この仮茎の中心から花茎が伸びてきます。
東邦大学薬学部付属薬用植物園によると、花が咲くのは1本の仮茎につき1回だけで、実をつけたあと仮茎は枯れます。そのかわり株元から新しい芽が出て、次の世代が育ちます。
花は下を向いて垂れ下がる
伸びた花茎の先には、赤紫色の苞(ほう)に包まれた花のかたまりがつき、そのまま下へ垂れ下がります。苞が一枚ずつめくれていくと、中から小さな実が二列に並んで顔を出します。
大きな花びらに見える赤紫色の部分は、花ではなく苞です。東邦大学薬用植物園によると、本当の花は、あとでバナナの実になる1本1本のほうにあります。
この段階では、実はすべて下向きです。1本の仮茎につく実は10〜15房、1房あたりの本数は10〜20本ほど。
店で「一房」と呼ぶかたまりは、この房のひとつがもとになっています。赤紫色の苞は「バナナハート」とも呼ばれ、産地では野菜として食べられています。
実だけが上を向く
下向きに生まれた実は、成長するにつれて太陽の光のほうへ向かい、上へ反り返っていきます。房は重みで下に垂れたまま、実だけが上を向く。
この向きの食い違いが、あの三日月形のカーブをつくります。
つまり、1本のバナナのカーブの内側は、畑でぶら下がっていたときに空を向いていた面です。房の付け根を下にして持つと、実の先が上に反った、畑でのもともとの姿勢を再現できます。
一房を手に取ると、どの実も同じ側へカーブしているはずです。房全体がひとつの向きで垂れ下がり、どの実も同じ空の方向へ反り返ったからです。
仕組みはまだ解明されていない
ここからが本題です。「バナナが曲がるのは負の重力屈性のためだ」という説明をよく見かけます。
ところが日本植物生理学会が運営する植物Q&Aでは、こうしたネット上の説明が直接の実験的証拠にもとづくものかどうかは分からない、と回答されています。よく似た形のキュウリについては、東北大学の研究が紹介されています。曲がる外側の部分が先に発育し、内側があとから追いつききれずに曲がりが残る、という仕組みです。
バナナでも同じような「育つ速さの差」が関わっている可能性はありますが、確かめられてはいません。回答者はさらに、果実が育ちながらゆっくり歪んでいく現象には、何らかのホルモン様物質が関わっていると推測されると補足しています。茎や葉が曲がる仕組みほど単純ではない、という見立てです。
同じ「曲がる」でも、光のほうへ茎が傾く現象と、実が反り返る現象は別物として扱う必要があるわけです。
よく見かける説明は2つあります。日本バナナ輸入組合は「太陽の光に向かって」上に曲がると説明し、ネット上では「重力と反対向きに伸びる性質」だとする説明が目立ちます。光と重力のどちらが主役なのか、あるいは両方なのか。この点を実験で切り分けた結果は、植物Q&Aの回答の時点では示されていません。
畑から食卓までの流れ
カーブができる時期と、私たちの手に届くまでの流れを並べると、次のようになります。
| 段階 | 時期のめやす | 実の向きと色 |
|---|---|---|
| 植え付け | 0か月 | — |
| 花茎が伸び、苞に包まれた花が垂れ下がる | 約半年後 | 実は下向き |
| 実が育ち、上へ反り返る | 開花のあと | 実だけが上向きに曲がる・緑 |
| 房ごと切り取って収穫 | 植え付けから約9〜14か月 | 緑のまま |
| 日本へ輸入 | 収穫後 | 未熟な緑色のものだけ輸入できる |
| 室(むろ)で追熟 | 輸入後 | エチレンガスで黄色に |
| 店頭から家庭へ | 出荷後 | 熟すとシュガースポットが出る |
カーブができるのは、畑で実が育っているあいだです。私たちが店で見る黄色は、日本に着いてから追熟でつけた色です。
種がないのに実がなる
もうひとつの不思議は種です。バナナを切っても、中心に黒い粒がうっすら見えるだけで、育つ種は入っていません。
私たちが食べているバナナは染色体を3組持つ三倍体で、種ができないまま実だけが大きくなる性質を持っているためです。一方、染色体が2組の二倍体のバナナには、きちんと種ができます。
日本バナナ輸入組合によると、あの黒い点は種のなごりです。野生のバナナにはアズキ粒ほどの硬い種がぎっしり詰まっていて、いまもフィリピンやマレーシアでは種ありバナナが食べられています。
世界で育てられているバナナは、大きく生で食べる「生食用」と、加熱して食べる「料理用(プランテン)」に分かれます。東京税関の資料によると、世界の生産量の4割ほどは料理用です。一方、日本に生で輸入されるバナナの99%以上は、なじみのある生食用を含む区分が占めています。
突然変異で生まれた種なしの系統は食べられる部分が多く、人が大事に育てて広めました。種がないので、株元から出る子株を選んで育て、次の世代をつないでいます。
緑のまま海を渡る
日本で出回るバナナは、大部分が輸入品です。日本バナナ輸入組合によると約8割がフィリピン産で、エクアドルや台湾からも入ってきます。東京税関の資料によると、家庭で買う量は2004年から果物の中で1位が続いています。
輸入には季節の波もあります。同じ資料では、輸入量は毎年4〜5月ごろが山で、夏から秋にかけて減ります。メロンやスイカ、りんごやみかんが出回る時期に、バナナを選ぶ人が減るためです。
東京税関の資料によると、植物防疫法の決まりで、日本に輸入できるのは未熟な緑色のバナナだけです。届いたバナナは室(むろ)と呼ばれる専用の倉庫に入れ、植物ホルモンのひとつであるエチレンガスで食べごろまで熟させます。これを「追熟」といいます。
店に並んだばかりのバナナは両端が緑のこともあります。熟すにつれて全体が黄色くなり、さらに進むとシュガースポットと呼ばれる茶色い斑点が出てきます。
日本への輸入の歴史は、東邦大学薬用植物園によると1903年に台湾から輸入したのが始まりです。第二次世界大戦後はGHQ(連合国軍総司令部)によって輸入が制限され、たいへん高価でした。それが1963年の輸入自由化をきっかけにフィリピン産が大量に入り、安く身近な果物になりました。
よくある疑問
- バナナは木ですか、草ですか?
- 草です。高さ2〜10メートルになりますが、幹に見える部分は葉の根もとが重なった仮茎で、木質の幹はありません。1本の仮茎が実をつけるのは1回だけで、その後は株元から出る子株が育ちます。
- バナナの中の黒い粒は種ですか?
- 種のなごりで、植えても育ちません。いま食べているバナナは三倍体で、種ができにくい性質を持っています。野生のバナナには、アズキ粒ほどの硬い種が詰まっています。
- バナナはなぜ緑のまま輸入されるのですか?
- 植物防疫法の決まりで、未熟な緑色のバナナしか輸入できないためです。日本に着いてから室(むろ)でエチレンガスを使って追熟させ、黄色くしてから出荷します。
まとめ
バナナのカーブは、下向きに生まれた実が光のほうへ上に反り返った跡です。ただし反り返る仕組みそのものは、実験でまだ確かめられていません。
種がないのは三倍体だから、緑のまま届くのは植物防疫法の決まりがあるからです。次にバナナを手に取ったら、カーブの内側を上にして持ち、畑で空を向いていた姿を思い浮かべてみてください。
参考にした資料