生き物

チョウは足で味を感じる?意外なセンサーの場所

2026年7月 · 読了3分
チョウは足で味を感じる?意外なセンサーの場所

花にとまったチョウは、足の先で蜜の甘さを確かめています。人間が舌でやっていることを、チョウは脚の先端でやってのけるのです。

しかも足のセンサーは、蜜を探すためだけの道具ではありません。卵を産む葉を選ぶときにも使われています。

足の先にある味のセンサー

チョウの脚のいちばん先は、ふ節(ふせつ)と呼ばれる細かい節に分かれています。ここには感覚毛という小さな毛が並び、その中に味覚受容体というタンパク質が入っています。

受容体が相手の成分と結びつくと、神経に信号が流れます。においのように空気を漂う成分ではなく、直接ふれた液体や葉の表面の成分を読み取るしくみです。

人間の舌の味蕾(みらい)と役割はよく似ていますが、置かれている場所がまったく違います。

甘さを感じると口が伸びる

足が甘い液体にふれると、チョウはくるくると巻いていた口を伸ばします。口吻(こうふん)と呼ばれるストロー状の口で、ふだんはぜんまいのように巻かれています。

この反応は実験でも確かめられています。ふ節に糖の液をつけると神経が濃度に応じて反応し、口を伸ばす動きが起きるのです。

同じ糖でも反応の強さには差があり、ショ糖がいちばん強く、果糖、麦芽糖、ブドウ糖と続くことが報告されています。花にとまってすぐ蜜を吸えるのは、着地した瞬間に足が味見を終えているからです。

卵を産む葉を足で確かめる

メスは産卵の前に、前脚で葉の表面を細かく叩きます。ドラミングと呼ばれる行動で、傷ついた葉からしみ出す成分を足のセンサーで確かめているのです。

幼虫は決まった植物しか食べられません。葉を選び間違えれば、生まれた子は育たないことになります。

この見分けを担う分子も特定されています。2011年に日本の研究チームが発表した論文では、ナミアゲハのメスの前脚から見つかった味覚受容体PxutGr1が、ミカンの仲間の葉に含まれるシネフリンという成分に反応することが示されました。

この受容体のはたらきを抑えると、産卵行動そのものが弱まりました。足の味見は、次の世代の生死を分ける判断だといえます。

味を感じる場所は足だけではない

味覚受容体があるのはふ節だけではありません。触角、口吻、はね、産卵管など、体のあちこちの感覚子に分布しています。

チョウとガの味覚受容体をまとめた2020年の総説では、そうした広がりが整理されています。同じ総説では性差も紹介されていて、中南米にすむドクチョウの仲間ヘリコニウスでは、前脚にある味覚感覚子の数がオスとメスではっきり違いました。

26種類の受容体遺伝子が、メスで強くはたらいていたのです。卵を産む役目を負うメスほど、脚の味覚が発達しているわけです。

「人間の舌の200倍」は根拠が不明

足のセンサーは人間の舌の200倍敏感、という説明をよく見かけます。ただしこの数字は、もとになった研究をたどれる形で示されている例が見当たりません。

500倍とする紹介もあり、数字自体が一定していません。広く語られてはいますが、裏づけのはっきりしない俗説として受け取るのが安全です。

確かなのは、足のセンサーが糖の種類や濃度を細かく見分けているという実験結果のほうです。

チョウの細い脚は、歩くための足であると同時に味覚器官です。次に花にとまったチョウを見かけたら、その一瞬で味見が終わっていると思って眺めてみてください。

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