コーヒーはなぜ眠気を覚ます?脳をだますしくみ
コーヒーで眠気が覚めるのは、カフェインが脳の「眠気を受け取る場所」に先回りして座り込むからです。眠気そのものが消えるわけではありません。
眠気のもとは裏でたまり続け、カフェインが切れたときにまとめて押し寄せます。仕組みを知ると、飲む時間の決め方が変わります。
眠気の正体はアデノシン
起きて活動しているあいだ、脳のなかではアデノシンという物質が少しずつ増えていきます。これが神経細胞の表面にある「アデノシン受容体」にはまると、神経のはたらきが抑えられ、私たちは眠気を感じます。
受容体にはA1、A2A、A2B、A3の4種類があり、目覚めを保つ力に強く関わるのはA2Aです。起きている時間が長いほどアデノシンはたまるので、夜になるほど眠くなります。この「たまった眠気」を睡眠圧と呼びます。
カフェインは受け皿に先回りして座る
カフェインとアデノシンは、どちらもプリンという同じ骨格をもつ化合物です。形が似ているので、カフェインはアデノシン受容体にはまり込めます。
ただし、はまってもスイッチは入れません。席だけ占領して、本来の合図を出さないのです。
しかもカフェインは血液から脳へ入る関門を楽に通り抜け、4種類の受容体すべてをふさぎます。
消しているのではなく、隠しているだけ
誤解されやすいのはここです。カフェインはアデノシンを分解も除去もしません。
受け皿がふさがれているあいだも、アデノシンは裏でたまり続けています。やがてカフェインが分解されて席が空くと、待たされていた信号が一気に届きます。
徹夜のコーヒーのあとに強い眠気が来るのは、このためです。
効き目が続く時間には、大きな個人差があります。健康な大人ならカフェインの半減期はおよそ5時間。
半減期とは、体内の量が半分になるまでの時間のことです。ところが喫煙者では約半分に短くなり、妊娠後期には15時間まで延びることがあります。
同じ一杯で平気な人と眠れなくなる人がいるのは、この分解速度の差が理由のひとつです。
就寝6時間前の一杯でも、睡眠は1時間削られる
2013年、アメリカの睡眠研究チームが、カフェイン400ミリグラムを就寝の直前・3時間前・6時間前に飲む実験を行いました。結果は、6時間前に飲んだ場合でも総睡眠時間が1時間以上減っていました。
しかも参加者の自己申告では、眠りが妨げられた自覚がほとんどありません。夕方の一杯は、本人が気づかないところで夜を削ります。
研究チームは、就寝の6時間前からはまとまった量を控えるべきだと結論づけました。
取り出したのは1820年、きっかけはゲーテ
カフェインという物質が単離されたのは1820年です。ドイツの化学者フリードリープ・フェルディナント・ルンゲが、コーヒー豆から白い結晶を取り出しました。
きっかけは前年の1819年、詩人ゲーテがルンゲにコーヒー豆を渡し、「これも研究に使ってみなさい」とすすめたことでした。当時ルンゲは25歳。
ただし、それが脳の受容体をふさいでいるという仕組みが分かるのは、150年以上あとの話です。
コーヒーは眠気を消す薬ではなく、眠気の合図を一時的に足止めする物質です。足止めが解ければ、たまった分は必ず戻ってきます。
夜の眠りを守りたいなら、最後の一杯は就寝6時間前までにしてください。
参考にした資料