危険な爆薬を安全に運ぶ工夫が、ノーベル賞を生んだ?
ダイナマイトは、危険すぎる爆薬を安全に運ぶために生まれました。原料のニトログリセリンは、わずかな衝撃で爆発してしまう液体です。
スウェーデンのアルフレッド・ノーベルは、これを珪藻土という土にしみ込ませ、1867年に特許を取りました。その発明で築いた富が、後のノーベル賞の元手になります。
揺れただけで爆発する液体
ニトログリセリンは、1847年にイタリアの化学者アスカニオ・ソブレロが作り出した液体の爆薬です。当時使われていた黒色火薬より、はるかに強い力を出せました。
ところが性質が荒く、運ぶ途中の揺れや温度の変化で爆発することがあります。トンネルや鉄道の工事は強い爆薬を求めていましたが、液体のままでは事故が絶えませんでした。
弟を失った1864年の事故
1864年、ストックホルム郊外にあったノーベル家の工場が爆発します。この事故で、弟のエミールを含む数人が亡くなりました。
市はこれを重く見て、市内でのニトログリセリンの実験を禁止します。ノーベルは実験の場を市外へ移し、液体を安全な形に変える方法を探し続けました。
土にしみ込ませるという答え
行き着いた答えは、珪藻土でした。珪藻土は、大昔の藻の殻が水の底に積もってできた土です。
中は細かい穴だらけで、液体をよく吸います。ここにニトログリセリンを吸わせると、粘土のような固まりになりました。
液体が中で動き回らないため、多少ぶつけても爆発しません。
ノーベルは1867年、この爆薬の特許を取りました。ギリシャ語で力を意味するデュナミスから、ダイナマイトと名づけています。
売り出したときの商品名は「ノーベルの安全爆薬」でした。
安全なのに、なぜ爆発できるのか
衝撃に強くすると、今度は狙ったときに爆発させにくくなります。この問題を先に解いていたのが、1865年にノーベルが発明した雷管です。
雷酸水銀という敏感な薬品を詰めた小さな金属の筒で、まずこれを爆発させます。その衝撃が引き金となり、ダイナマイト全体が爆発します。
ふだんは鈍く、必要なときだけ確実に働く。爆薬と起爆装置の二段構えが、工事現場で使える道具にしました。
富がノーベル賞に変わるまで
ダイナマイトは、トンネルや運河、鉱山の工事を大きく速めました。ノーベルは生涯で355件の特許を持ち、各国に90を超える工場を築きます。
1895年11月に署名した遺言では、財産の大半を基金にするよう指示しました。その利子を、物理学、化学、生理学・医学、文学、平和の5分野で人類に最も貢献した人へ贈るためです。
ノーベルは1896年に亡くなり、第1回の授賞は1901年に行われました。
賞が生まれたきっかけとして、1888年の誤報の話がよく語られます。兄リュドビックの死をアルフレッドの死と取り違えたフランスの新聞が「死の商人、死す」と書いた、という筋書きです。
ただし、その記事の原本は今も見つかっていません。歴史家の間では俗説として扱われており、事実とは言えません。
危ない液体を、土にしみ込ませる。その一つの工夫が工事現場の景色を変え、125年続く賞の元手になりました。
ニュースでノーベル賞の名前を見かけたら、珪藻土の細かい穴のことも思い出してみてください。
参考にした資料