船はなぜ鉄なのに浮く?浮力のちから
鉄のかたまりは水に沈むのに、鉄でできた船は浮きます。決め手は材質ではなく形です。
船が押しのけた水の重さと同じ大きさの力が、上向きに船を押し返しているからです。この力を浮力といい、2200年以上前の数学者アルキメデスが言葉にしました。
押しのけた水の重さが、そのまま上向きの力になる
水に物を入れると、その物のかさの分だけ水が押しのけられます。このとき物には、押しのけた水の重さとまったく同じ大きさの上向きの力がはたらきます。
これがアルキメデスの原理です。押しのけた水が1万トンなら、浮力も1万トン分。
船の重さがそれより軽ければ浮き、重ければ沈みます。船の設計者はこの引き算だけで、その船が何トンまで荷物を積めるかを見積もれます。
難しい計算をしなくても、押しのけた水の量さえ分かれば答えが出るのです。
決め手は鉄と空気を合わせた平均の密度
鉄は1立方センチメートルあたり約7.8グラムで、水のおよそ7.8倍の重さがあります。ところが船の中身は、ほとんどが空気の入った大きな空洞です。
鉄の重さを船全体のかさで割ると、平均の密度は水の1グラムを下回ります。平均の密度が水より小さい物は必ず浮き、大きい物は必ず沈みます。
水に沈んだ部分の割合は、この密度の比とぴたり一致します。
浮くか沈むかを決めるのは、材質ではなく鉄と空気を合わせた平均の密度です。同じ鉄でも、クギは小さくて水をほとんど押しのけないので沈みます。
うすく広げてお椀の形にすれば、たくさんの水を押しのけて浮きます。
見つけたのは2200年前のアルキメデス
この原理を書き残したのは、紀元前287年ごろから紀元前212年ごろに生きた古代ギリシャの数学者アルキメデスです。著書『浮体について』に記されています。
有名なのは、風呂であふれた湯を見て「エウレカ(分かったぞ)」と叫び、裸のまま走り出したという逸話でしょう。ただしこれは俗説です。
この話を書いたのは約200年後のローマの建築家ウィトルウィウスで、アルキメデス自身の著作には出てきません。
海水と真水では、沈み方が変わる
海水は1立方メートルあたり約1025キログラム、真水は約1000キログラムです。差はわずか2.5パーセントですが、船にははっきり効きます。
浮力の小さい真水では、同じ荷物を積んだ船がより深く沈むのです。そのため船の横腹には、積みすぎを防ぐ満載喫水線(プリムソルマーク)が引かれています。
真水用の線Fは、夏の海水用の線Sより上に描かれます。川の港で目いっぱい積んでも、海に出れば船体が少し浮き上がる計算です。
この表示を初めて義務づけたのは、イギリスの1876年商船法でした。
船が沈むのは、空洞に水が入るとき
船体に穴があくと、空洞を満たしていた空気が水と入れかわります。かさは変わらないのに重さだけが増え、平均の密度が水を超えてしまいます。
こうなると浮力が足りません。船の内部が水密の壁でいくつもの区画に仕切られているのは、浸水を一部屋に閉じこめ、船全体の平均の密度を水より下に保つためです。
台所の流しですぐ確かめられます。アルミホイルを固く丸めて沈め、次に同じ1枚を皿の形に広げて浮かべてみてください。
重さは変えていないのに結果だけが変わるなら、効いているのは形と、それが押しのける水の量です。
参考にした資料