ハチミツはなぜ腐らない?食べ物の不思議な性質
ハチミツが長持ちするのは、糖が濃すぎて菌の使える水が残らないからです。そこに酸性という壁と、ミツバチ由来の酵素が作る殺菌成分が重なります。
三重の守りが同時に働くため、常温の棚に置いても傷みません。ただし「絶対に腐らない」わけではなく、水分が増えれば守りは崩れます。
菌が使える水が残らない
食べ物が傷むのは、細菌やカビが増えて分解するからです。そして菌が増えるには水が要ります。
ハチミツの中身はほとんどが糖で、果糖が約38%、ブドウ糖が約31%を占めます。この濃い糖が水をつかまえてしまうため、菌が自由に使える水はほとんど残りません。
この「使える水の量」を水分活性と呼び、ハチミツはおよそ0.6です。多くの細菌が増えるには0.91以上が必要とされるので、それを大きく下回る水準です。
さらに強い浸透圧が働き、入り込んだ菌からは逆に水が吸い出されます。乾物や砂糖漬けが長持ちするのも同じ理屈です。
酸性という二つ目の壁
ハチミツのpHは3.5から4ほどで、はっきりした酸性です。pHは数値が小さいほど酸性が強く、7が中性にあたります。
腐敗の原因になる菌の多くは中性付近を好むため、この酸っぱさ自体が壁になります。酸の正体はグルコン酸で、ミツバチが加えた酵素の働きでブドウ糖から作られたものです。
甘いのに酸性、という組み合わせはミツバチの仕事の結果なのです。
ミツバチが仕込む殺菌成分
働きバチは花の蜜を巣に運ぶとき、下咽頭腺(かいんとうせん)で作られるグルコースオキシダーゼという酵素を混ぜます。この酵素は、ブドウ糖と水と酸素からグルコン酸と過酸化水素を作ります。
過酸化水素は消毒に使われる成分です。花の蜜のままでは、この守りはありません。
薄まったときだけ働く仕掛け
面白いのはここからです。濃いままのハチミツの中では、この酵素はほとんど働いていません。
酸性が強いうえ、糖が濃くて分子が動きにくいからです。ところが水で薄まると酵素が目を覚まし、過酸化水素を作り始めます。
糖の壁がゆるむ場面でだけ、二段目の守りが立ち上がる形になっています。傷の手当てに古くからハチミツが使われてきた背景にも、この仕組みがあります。
例外は湿気と、1歳未満の赤ちゃん
守りの前提は水分が少ないことです。フタを開けっ放しにしたり、濡れたスプーンを入れたりすると水分が増え、発酵したり傷んだりします。
もう一つ、こちらは命に関わる注意です。ハチミツにはボツリヌス菌の芽胞が混じることがあり、消費者庁は1歳未満の乳児に与えないよう呼びかけています。
乳児は腸内細菌の環境が整っておらず、菌が増えて毒素を作ってしまうことがあるためです。芽胞は100℃で数分加熱しても生き残ることがあり、煮沸しても安全にはなりません。1歳を過ぎれば避ける必要はありません。
なお、古代エジプトの墓から出た3000年前のハチミツが今も食べられた、という話は広く語られていますが、確かな記録の裏づけは取れていません。俗説として受け止めておくのが正確です。
フタをしっかり閉める、乾いたスプーンを使う、1歳になるまで赤ちゃんには与えない。この3つを守れば、ハチミツは台所で最も長持ちする食品の一つです。
参考にした資料