世界の屋根ヒマラヤが、かつて海の底だった証拠とは
エベレストの山頂に立つ人は、かつて海の底だった岩の上に立っています。標高8600メートルより上の岩は石灰岩で、そこには三葉虫やウミユリといった海の生き物のかけらが含まれています。
ヒマラヤは、海底に積もった地層がそのまま押し上げられてできた山脈です。山ができたあとに海が来たのではなく、海だった地面が山になりました。
山頂の岩は海底の石灰岩
エベレストの山頂から標高8600メートル付近までを占める岩は、オルドビス紀の石灰岩です。オルドビス紀はおよそ4億8500万年前から4億4400万年前にあたり、当時この岩は暖かく浅い海の底でした。
山頂近くで採取された石灰岩からは、三葉虫、ウミユリ、貝形虫の破片が見つかっています。石灰岩は生き物の殻や骨格が積み重なってできる岩なので、化石が入っていること自体は不思議ではありません。
不思議なのは、それが標高8000メートルを超える場所にあることです。
テチス海という失われた海
インド大陸はもともとユーラシア大陸から遠く南に離れており、その間にはテチス海と呼ばれる広い海がありました。この海の底には、生き物の殻や泥が長い時間をかけて積もり続けます。
ヒマラヤの南側には、その地層がほぼ途切れずに残っている地帯があります。先カンブリア時代の終わりから始新世まで、数億年分の海の堆積物が順番に重なっている場所です。
地層の並び方まで海のころのまま残っている点が、この山脈の大きな特徴です。
大陸の衝突が海底を持ち上げた
インドプレートは北へ向かって年18センチから19.5センチという速さで動いていました。ところが約5500万年前、その速度が年4.5センチまで急に落ちます。
ユーラシア大陸にぶつかり、それ以上進めなくなったためです。行き場を失ったテチス海の堆積物は、押し縮められて上へ盛り上がりました。
海の底が数千メートルの高さまで運ばれた結果が、いまのヒマラヤ山脈です。
いまも押され続けている
衝突は過去の出来事ではありません。インドプレートとユーラシアプレートは現在も年17ミリほどの速さで近づき、山脈を押し縮め続けています。
エベレストの標高は2020年12月に8848.86メートルと発表されました。ネパールと中国がそれぞれ測量したうえで共同発表した数字で、両国が別々の高さを使っていた状態はこれで解消されました。
化石は山頂だけのものではない
海の化石が見つかるのは、高い峰の上だけではありません。ネパールのカリ・ガンダキ川の流域では、黒い石の中に渦を巻いた殻が入った化石が数多く採れます。
ジュラ紀や白亜紀のアンモナイトで、現地ではシャーラグラーマと呼ばれ、ヒンドゥー教でヴィシュヌ神を表すものとして大切にされてきました。地質学の証拠であると同時に、信仰の対象にもなっている石です。
次に山を見上げるときは、その岩がどこで生まれたのかを考えてみてください。石灰岩は海でできる岩です。
博物館で石灰岩の標本を見かけたら、ヒマラヤと同じ物語の一部が手の届く場所にあると思って眺めると、見え方が変わります。
参考にした資料