1秒はどう決まる?原子の振動で測る時間の正体
1秒の長さを決めているのは、時計の針ではありません。基準になっているのはセシウムという原子です。
セシウム133原子が出すマイクロ波が9,192,631,770回振動する時間、それが現在の1秒です。1967年に決まったこの考え方は、いまも世界共通の時間の土台になっています。
かつては地球の自転が基準だった
1秒はもともと、地球の自転から決められていました。1日を24時間、1時間を60分、1分を60秒と割っていくと、1日は86400秒。
その86400分の1が1秒でした。ところが地球の自転は一定ではありません。
潮の満ち引きなどの影響で、速さがわずかに揺らぎます。そこで1956年、基準は地球の公転へ移されました。
1900年当時の1年の長さの3155万6925分の1、という決め方です。ただしこの1秒は長年の天体観測から計算するもので、実験室では測り直せませんでした。
原子なら世界中で同じ1秒が作れる
1967年、基準はついに原子へ移ります。セシウム133原子には、エネルギーがほんのわずかに違う二つの状態があります。
この二つを行き来するとき、原子は決まった周波数の電磁波を吸収したり放出したりします。その周波数が9,192,631,770ヘルツ。
およそ92億回の振動を数え終えた瞬間が、1秒の終わりです。この電磁波は目に見える光ではなく、電子レンジにも使われるマイクロ波です。
原子には工業製品のような個体差がありません。日本のセシウム原子もフランスのセシウム原子も、同じ振動数を示します。
だからどこの国でも、まったく同じ1秒を再現できるのです。
精度は7000万年に1秒
この定義を時計の形にしたものが原子時計です。産業技術総合研究所のセシウム原子泉時計「NMIJ-F2」は、7000万年に1秒しかずれない精度を達成しています。
一般的な原子周波数標準器でも、1万年から10万年に1秒という水準です。
日本の標準時も、1台の時計に頼ってはいません。情報通信研究機構は水素メーザー原子時計と約18台のセシウム原子時計を組み合わせて時刻を作っています。
2021年8月からはここに光格子時計が加わり、週に1、2回の頻度で標準時の刻みを調整するようになりました。その結果、世界の基準である協定世界時とのずれは10億分の20秒から10億分の5秒以内へと4分の1以下に縮まりました。
2019年に言い回しが変わった
2019年5月20日、国際単位系(SI)が大きく改定されました。キログラム原器のような人工物が基準からすべて外れ、7つの定数を出発点として単位を決める形になったのです。
秒の定義もこのとき書き直され、「セシウム周波数を9,192,631,770ヘルツと定めることで秒が決まる」という表現になりました。ただし数値そのものは1967年から一度も動いていません。中身は同じで、言い回しだけが整理されたのです。
次の基準は光になる
セシウムより正確な時計は、すでに動いています。光格子時計です。
セシウムのマイクロ波に対し、光格子時計は振動がはるかに速い光を使うため、時間をより細かく刻めます。情報通信研究機構は、相対不確かさ1.9×10のマイナス16乗の範囲で周波数が分かっているストロンチウム光格子時計を参照し、世界で初めて国家標準時を生成しました。
国際的には2030年をめどに、秒の基準をセシウムから光時計へ移す議論が進んでいます。
1秒は自然に転がっていた長さではなく、人が決め直してきた約束です。地球の自転から公転へ、公転から原子へ、そして次は光へ。
次に秒針が動くのを見たときは、その裏で92億回の振動が数えられていることを思い出してみてください。
参考にした資料