カブトムシの立派な角は何のためにあるのか
カブトムシのオスの角は、飾りではなく実戦用の武器です。樹液の出る場所とメスをめぐって、オス同士が角を突き合わせて争います。
しかも角の形も長さも、偶然そうなったわけではありません。戦い方と、幼虫時代の暮らしぶりが決めています。
オスだけが持つ道具
オスの頭には、先が二股に分かれた長い角が突き出しています。メスにこの角はなく、頭は小さくなめらかです。
オスが角を使う場面は決まっていて、木の幹からしみ出す樹液の場所を確保するときと、メスをめぐって競うときです。樹液の出ている木にはメスも集まります。
そこを押さえたオスほど、交尾の機会が増えることになります。角は食事と繁殖の両方を左右する道具なのです。
角の下に差し込んで投げ落とす
戦い方も決まっています。角を相手の体の下に差し込み、てこの要領ですくい上げて木から引きはがすのです。
押し合いで決まらないときは、角をひねって相手の体勢を崩します。落とされたほうが負けで、樹液の場所は勝ったオスのものになります。
形は戦い方に合わせてできている
2014年に米国科学アカデミー紀要(PNAS)で発表された研究が、この形が偶然ではないことを示しました。モンタナ大学のエリン・マカロー氏らは、有限要素解析という工学の手法で、角にかかる力を計算しています。
その結果、それぞれの種の角は、その種がふだんおこなう戦い方をしたときに、応力とひずみが最も小さくなる形をしていました。日本のカブトムシの角は断面が三角形で、相手をこじり上げてひねる動きに強くできています。
武器の形と使い方が、種ごとにきちんと対応していたわけです。
長さは幼虫時代に決まる
角の長さは、体の大きさ以上に大きく変わります。京都の個体群を調べた研究では、体の大きさに対する角の伸び方の強さが3.15と報告されました。
この数値が1なら体と同じ割合で伸びるという意味なので、大きな個体ほど角が不つり合いなほど長くなることになります。差を生むのは幼虫時代の栄養です。
よく食べて育った幼虫ほど、長い角の成虫になります。成虫になってから角が伸びることはありません。
角の長さは、その個体が幼虫時代にどれだけ恵まれていたかを示す看板なのです。
オスとメスの差がいつ生まれるかも分かっています。基礎生物学研究所などが2019年に発表した研究によると、角の性差が現れるのは、前蛹(さなぎになる直前の状態)が始まってから約29時間後です。
メスの幼虫でtransformerという遺伝子をはたらかなくすると、メスにもオスのような立派な角が生えました。
大きな角でも飛行の妨げにならない
あれだけ長い角を頭につけて飛ぶのに困らないのか、という疑問が残ります。2013年に英国王立協会紀要Bで報告された実験によれば、答えはほとんど困らない、です。
角は中空で、重さは体重のおよそ2パーセントしかありません。カブトムシは飛ぶ速度が遅く、体を立てた姿勢で飛ぶため、空気抵抗の増え方も小さくなります。
重さと抵抗を合わせても、飛ぶのに必要な力の増加は最大級のオスでも3パーセント未満でした。安く作れて強い武器だからこそ、ここまで大きくなれたと考えられます。
カブトムシの角は、戦い方に合わせて形が決まり、幼虫時代の食事で長さが決まる武器です。夏の森で角を突き合わせるオスを見かけたら、その一本の長さが土の中での暮らしぶりを物語っていると思って眺めてみてください。
参考にした資料
- PubMed Central — Variation in an Extreme Weapon: Horn Performance Differences across Rhinoceros Beetle (Trypoxylus dichotomus) Populations
- PubMed Central(Proceedings of the Royal Society B, 2013) — Elaborate horns in a giant rhinoceros beetle incur negligible aerodynamic costs
- 基礎生物学研究所 — カブトムシの角(ツノ)にオスとメスとの違いが現れる時期の特定に成功