生き物

カマキリはなぜ虫の中でも指折りの狩人なのか

2026年7月 · 読了3分
カマキリはなぜ虫の中でも指折りの狩人なのか

カマキリの強みは、速さではありません。前足を振り出すのにかかる時間はおよそ0.1秒。

昆虫の中には、もっと速い一撃を持つ虫がいます。それでもカマキリが狩人として優れているのは、獲物までの距離を立体視で測り、相手の動きに合わせて振り出し方を変えられるからです。

鎌の正体はトゲの並んだ前足

カマキリの前足は、太い「腿節(たいせつ)」と、そこに折りたたまれる「脛節(けいせつ)」でできています。腿節には溝があり、そのふちにトゲがずらりと並んでいます。

脛節を閉じると溝にぴたりとはまり、トゲとトゲがかみ合って獲物を逃がしません。挟むというより、トゲ付きの折りたたみナイフで留めるような構造です。

ふだんはこの前足を胸の前で折りたたんでいて、その姿が祈っているように見えることが、英語名 praying mantis(祈るカマキリ)の由来になりました。

距離を測る立体視

カマキリは、立体視ができると確かめられている唯一の昆虫です。2018年、イギリスのニューカッスル大学の研究チームは、カマキリに極小の3Dメガネを蜜ろうで取り付け、立体映像の獲物を見せる実験を行いました。

カマキリは、そこにいないはずの獲物へ鎌を振り出しました。しかもその立体視は人間とは仕組みが違い、左右の絵柄を細かく照合するのではなく、「動いて変化している場所」を手がかりに奥行きをつかんでいました。

振り出しにかかる時間は約0.1秒

では、その一撃はどれくらい速いのでしょうか。2020年に発表されたマダガスカル産のカマキリ(Polyspilota aeruginosa)の高速度撮影の研究によると、狩りの一撃にかかる時間は60ミリ秒から290ミリ秒、中央値でおよそ100ミリ秒でした。

脛節を振り出す動きだけを取り出すと、中央値は65ミリ秒です。人がまばたきをするのとほぼ同じ長さで、たしかに速い。

ただし「目にもとまらぬ速さ」と呼べるほどではありません。

昆虫界の最速ではない

速さだけを競えば、上には上がいます。2006年に米国科学アカデミー紀要(PNAS)で報告された研究によると、アギトアリの仲間は大あごをわずか0.13ミリ秒で閉じます。

まばたきのおよそ2300倍の速さで、カマキリの0.1秒とは桁が3つ違います。それでもカマキリが狩人として通用しているのですから、強みは速さ以外のところにあるはずです。

速さより「合わせる」うまさ

2020年の研究は、カマキリの一撃が決まりきった動作ではないことを示しました。獲物がゆっくり動いているときは脛節を伸ばす時間が長くなり、途中で動きを止める「ため」が入る回数も増えます。

ためが入ったのは全体の約3割でした。相手の速さを見ながら、振り出しの速度と組み立て方そのものを変えているのです。

2024年に発表された別のカマキリの研究では、捕獲に成功しやすかったのは距離3センチほどの近い間合いで、ゆっくり慎重に出した一撃でした。遠くの獲物へ勢いよく振り出した一撃のほうが、むしろ空振りに終わりやすかったのです。

カマキリの狩りは、速さで押し切るものではありません。じっと動かないのは臆病だからではなく、距離を測り、相手の速さを読むための時間です。

草むらでカマキリを見つけたら、鎌を出す瞬間ではなく、その手前の動かない数秒を眺めてみてください。

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