生き物

虫の血は何色?赤くない理由と、赤い血をもつ例外

2026年7月公開 · 2026年9月更新 · 読了7分
昆虫の血は赤くない?緑や黄色っぽい理由

昆虫の血は、ほとんどの種類で赤くありません。透明に近いか、うっすら黄色や緑がかった色をしています。

理由は、昆虫の血には酸素を運ぶヘモグロビンが入っていないからです。では酸素はどうやって全身に届くのか。蚊をつぶすと出る赤い血や、テントウムシの黄色い汁は何なのか。例外の赤い血をもつ虫まで、順に見ていきます。

昆虫の血は「血リンパ」

昆虫の体をめぐる液体は、血液ではなく血リンパ(けつリンパ)と呼ばれます。人間のように閉じた血管の中を流れるのではなく、体の中の空間を自由に流れて、内臓や筋肉に直接ふれる仕組みです。

これを開放血管系といいます。心臓にあたるのは背中側を走る背脈管という管で、ノースカロライナ州立大学の昆虫学教材によれば、その拍動は1分あたり30〜200回。気温や活動量で大きく変わります。

背脈管の後ろ半分は腹部にある「心臓」で、前半分は頭へ向かう「大動脈」です。心臓の壁には弁のついた小さな穴が並び、拍動がゆるむたびに周りの血リンパを吸い込みます。吸い込んだ液は腹から頭へ一方向に送られ、頭の先で体の空間へ流れ出します。

背脈管だけでは、細い脚や翅の先まで液を押し出せません。同じ教材によると、翅や脚の付け根には補助の拍動器官があり、小さなポンプとして血リンパを先端へ送り込んでいます。

血リンパの仕事は、栄養・塩分・ホルモン・老廃物を運ぶことです。傷口をふさぐ凝固や、体に入った寄生者を包み込んで退治する免疫の役目も担っています。

もうひとつの大事な仕事が、水圧で体を押し広げることです。筋肉の力で体液の圧力を高め、ふ化や脱皮、脱皮後に体や翅を広げるときに使います。セミの羽化で、しわくちゃの翅がゆっくり伸びていくのも、この圧力のはたらきです。

赤くないのはヘモグロビンがないから

人間の血が赤いのは、ヘモグロビンという赤い色素タンパク質が酸素をつかまえて運んでいるからです。昆虫の血リンパには、ヘモグロビンも赤血球もありません。

酸素を運ぶ役目そのものを持っていないので、赤くなる必要がないのです。

酸素は空気のまま細胞に届く

では酸素はどう運ばれるのか。昆虫は体の側面に並ぶ気門という穴から空気を吸い込みます。気管という細い管が体の奥まで枝分かれして、細胞のすぐそばまで空気そのものを届けます。

イギリスのアマチュア昆虫学会の解説は、酸素と二酸化炭素の移動には血のような輸送系はいっさい関わらない、とはっきり述べています。血が酸素を運ばなくても困らない体のつくりなのです。

人間でいえば、肺から全身の細胞まで空気のパイプが直接つながっているようなものです。呼吸と血の流れが、完全に別の配管になっています。

ただし気管の中を酸素が進むのは、主に拡散という自然にしみ出す動きです。体を伸び縮みさせるポンプの動きで空気を入れ替えてはいますが、遠くまで一気に送る力はありません。

同じ学会の解説によると、体の太さが約3cmを超えると、この仕組みでは呼吸が追いつかなくなります。昆虫が大きくなれない理由のひとつは、血ではなく呼吸の仕組みにあるのです。

あの黄色や緑は何の色か

血リンパの約9割は血漿(けっしょう)と呼ばれる液体で、残りの1割が血球です。血漿そのものは透明で、黄色や緑がかって見えるのは、体の中に溶けこんだ色素によるものです。

血球の数も人間とはかなり違います。ノースカロライナ州立大学の教材によれば、1立方ミリメートルあたり2万5000個未満から10万個超まで、種や状態によって幅があります。

緑色の仕組みは、2025年に米国科学アカデミー紀要(PNAS)に載った研究で一段くわしく分かりました。ロシアの研究チームがキリギリスの仲間の体から緑色のタンパク質を取り出したところ、青い色素と黄色い色素を一緒に抱えていたのです。

青と黄が重なると緑に見えます。研究チームによると、この色素タンパク質は血リンパの中に分泌され、体の表面にたまって体を濃い緑に染めていました。葉の上で目立たないための色です。

血の色くらべ

血の色は、酸素を運ぶ仕組みと深く結びついています。人間・イカやタコ・昆虫を並べると、その違いがよく分かります。

生き物による血の色と、色のもとになる物質
生き物血の色色のもと酸素の運び方
ヒト赤赤血球の中のヘモグロビン血が運ぶ
イカ・タコ・エビ・カニ酸素と結びつくと青血漿に溶けたヘモシアニン(銅を含む)血が運ぶ
多くの昆虫透明〜淡い黄・緑血リンパに溶けた色素気管が空気を直接届ける
ユスリカの幼虫(アカムシ)赤血リンパに溶けたヘモグロビン酸素の乏しい泥の中で呼吸を助ける

イカやタコの血が青いのは、ヘモシアニンという銅を含むタンパク質のためです。世界大百科事典によると、ヘモシアニンそのものは無色で、酸素と結びつくと青くなります。同じ「青い血」でも、酸素が離れると色が抜けるわけです。

蚊やテントウムシの「血」の正体

夏に蚊をたたくと、赤い血が出ることがあります。あれは蚊自身の血ではなく、蚊が吸った人や動物の血です。

米国疾病予防管理センター(CDC)によると、血を吸うのはメスの蚊だけで、卵をつくるために血を必要とします。かゆみ止めメーカーの池田模範堂によると、1回の吸血にかける時間は約3分です。オスは血を吸いません。オスもメスも、ふだんの栄養は花の蜜や果汁です。

テントウムシをつかむと、脚の関節から黄色い液が出てきます。富山市科学博物館の解説によると、この液にはアルカロイドという物質が含まれ、特有のにおいと苦みで小鳥やアリを遠ざけます。

この黄色い液は、テントウムシ自身の血リンパです。襲われたときに関節から体液をにじませて身を守るこの行動は、「反射出血」と呼ばれています。ツチハンミョウの仲間も同じように体液を出し、その体液にはカンタリジンという毒が含まれています。

赤い血を持つ虫もいる

例外はいます。釣り餌や熱帯魚の餌に使われる「アカムシ」はユスリカの幼虫で、体が赤いのは血リンパにヘモグロビンが溶けているためです。富栄養化した池や汚れた水の底の泥など、酸素の乏しい場所で暮らしています。

ウマの胃に寄生するウマバエの幼虫や、水中で暮らすマツモムシの仲間も同じくヘモグロビンを持ちます。共通するのは、酸素の乏しい場所で生きていること。

ウマバエの幼虫は馬の胃の壁に食い込み、馬が飲み込んだ空気から酸素を得ています。マツモムシの仲間は、体に抱えた空気の泡で呼吸しながら潜ります。泡の酸素が減ってくる潜水の後半に、ヘモグロビンにためておいた酸素を使うのです。

2020年に学術誌PLOS ONEで発表された研究では、ヘモグロビンの遺伝子そのものは、昆虫とその近縁を含む六脚類の32の目(もく)すべてで見つかりました。ただし大半は細胞の中にとどまっていて、細胞の外で働くヘモグロビンが見つかったのは38種にかぎられます。

よくある疑問

蚊をつぶすと出る赤い血は、蚊の血ですか?
蚊の血ではなく、蚊が吸った人や動物の血です。血を吸うのは卵をつくるメスだけで、蚊自身の血リンパは赤くありません。
虫にも心臓はありますか?
あります。背中側を走る背脈管という管が心臓の役目をしていて、1分あたり30〜200回ほど拍動します。心臓の部分は胸ではなく腹にあり、血リンパを腹から頭へ送って体の空間に流し出します。
虫の血も固まりますか?
固まります。ノースカロライナ州立大学の教材によると、血リンパには傷口をふさぐ凝固の働きがあります。小さな傷なら、固まった血リンパが栓になって体液が流れ出るのを止めます。

まとめ

虫の血が赤くないのは、酸素を運ぶヘモグロビンを持たず、酸素は気管で空気のまま細胞に届けているからです。血リンパは透明に近く、黄色や緑は溶けこんだ色素の色です。

赤く見える例外は、酸素の乏しい場所で暮らすユスリカの幼虫などにかぎられます。今度テントウムシの黄色い汁を見かけたら、それが虫の「血」そのものだと思い出してみてください。

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