昆虫の血は赤くない?緑や黄色っぽい理由
昆虫の血は、ほとんどの種類で赤くありません。透明に近いか、うっすら黄色や緑がかった色をしています。
理由は単純で、昆虫の血には酸素を運ぶヘモグロビンが入っていないからです。では酸素はどうやって全身に届くのか。そして例外はいるのか。順に見ていきます。
昆虫の血は「血リンパ」
昆虫の体をめぐる液体は、血液ではなく血リンパ(けつリンパ)と呼ばれます。人間のように閉じた血管の中を流れるのではなく、体の中の空間を自由に流れて、内臓や筋肉に直接ふれる仕組みです。
これを開放血管系といいます。心臓にあたるのは背中側を走る背脈管という管で、ノースカロライナ州立大学の昆虫学教材によれば、その拍動は1分あたり30〜200回。気温や活動量で大きく変わります。
赤くないのはヘモグロビンがないから
人間の血が赤いのは、ヘモグロビンという赤い色素タンパク質が酸素をつかまえて運んでいるからです。昆虫の血リンパには、ヘモグロビンも赤血球もありません。
酸素を運ぶ役目そのものを持っていないので、赤くなる必要がないのです。
酸素は空気のまま細胞に届く
では酸素はどう運ばれるのか。昆虫は体の側面に並ぶ気門という穴から空気を吸い込み、気管という細い管が体の奥まで枝分かれして、細胞のすぐそばまで空気そのものを届けます。
イギリスのアマチュア昆虫学会の解説は、酸素と二酸化炭素の移動には血のような輸送系はいっさい関わらない、とはっきり述べています。血が酸素を運ばなくても困らない体のつくりなのです。
あの黄色や緑は何の色か
血リンパの約9割は血漿(けっしょう)と呼ばれる液体で、残りの1割が血球です。血漿そのものは透明で、黄色や緑がかって見えるのは、体の中に溶けこんだ色素によるものです。
血球の密度も人間とはかなり違い、同じ教材によれば1立方ミリメートルあたり2万5000個未満から10万個超まで、種や状態によって幅があります。血リンパの仕事は酸素運搬ではなく、栄養・塩分・ホルモン・老廃物を運ぶこと。
さらに筋肉の力で体液の圧力を高め、ふ化や脱皮、羽を広げるときに体を押し広げる役目も果たします。血という名前は同じでも、担当している仕事がまるで違うのです。
赤い血を持つ虫もいる
例外はいます。釣り餌や熱帯魚の餌に使われる「アカムシ」はユスリカの幼虫で、体が赤いのは血リンパにヘモグロビンが溶けているためです。
ウマの胃に寄生するウマバエの幼虫や、水中で暮らすマツモムシの仲間も同じくヘモグロビンを持ちます。共通するのは、酸素の乏しい場所で生きていること。
2020年に学術誌PLOS ONEで発表された研究では、ヘモグロビンの遺伝子そのものは調べた32のグループすべてで見つかりました。多くは細胞の中にとどまっていて、血に溶け出して体を赤く染めるほど使われているのは、ごく一部の種にかぎられます。
虫の体を流れているのは、酸素を運ばない透明な液体です。酸素のほうは別の管で直接届いている。
今度アリやバッタを見かけたら、その体の内側では血と呼吸が完全に別々に動いていると思い出してみてください。
参考にした資料