昆虫には肺がない、ではどこで息をするのか
昆虫には肺がありません。代わりに体の側面に並ぶ気門という穴から空気を取り込み、体じゅうに張りめぐらされた細い管が、酸素を細胞のすぐそばまで直接届けます。
血液が酸素を運ぶ私たちとは、根本から違うやり方です。そしてこの仕組みが、昆虫の体の大きさの上限まで決めています。
息の入口は体の横に並んでいる
気門は、胸と腹の側面に左右一対ずつ並んだ小さな穴です。基本の形は胸に3対、腹の最初の9節に9対。
ただし多くの種では胸の1節目と腹の9節目に気門がなく、実際には10対前後になります。それぞれの穴にはふたのような弁があり、小さな筋肉で開け閉めできます。
必要なときだけ開く、扉つきの通気口だと考えるとわかりやすいでしょう。
気管が細胞のそばまで枝分かれする
気門から入った空気は気管という管に入り、枝分かれをくり返しながら細くなっていきます。行き着く先は気管小枝という極細の管で、その先端が細胞にじかに接しています。
酸素は血にのせて運ばれるのではなく、空気のまま細胞まで届く。これが昆虫の呼吸の核心です。
管がつぶれないための工夫
細い管を体じゅうに通せば、体を曲げたときにつぶれてしまいそうに思えます。そこで気管の壁には、らせん状に走るクチクラの補強が入っています。
掃除機のホースと同じで、曲げても内側の通り道が確保される構造です。さらに気管の一部はふくらんで気嚢(きのう)という袋になり、空気をためておく役目を果たします。脱皮のときや飛ぶときに、この蓄えが効いてきます。
昆虫も「息をしている」
小さな昆虫なら、空気は放っておいても管の中を拡散して届きます。ところが体が大きくなると、それだけでは足りません。
バッタやゴキブリの腹が規則的に伸び縮みしているのを見たことがあるでしょうか。あれは体節を動かして管の中の空気を押し出し、また吸い込む、能動的な換気です。
イギリスのアマチュア昆虫学会の解説も、拡散だけでは呼吸の需要をまかなえず、体節のポンプ運動が大きな役割を果たすと述べています。
この仕組みが体の大きさを決める
ただし、この方式には限界があります。体が太くなるほど空気を届ける管は長く多く必要になり、やがて追いつかなくなるからです。
同学会の解説では、体の直径がおよそ3センチを超えると呼吸の需要をまかなえなくなり、昆虫の体の大きさを制限しているのは呼吸のしくみだ、と説明されています。古生代の石炭紀からペルム紀には翼を広げて70センチに達する昆虫がいて、当時の高い酸素濃度がそれを可能にしたと長く考えられてきました。
ただし2012年に米国科学アカデミー紀要で発表された1万点を超える化石の解析によると、酸素が体の大きさを左右したのは昆虫の進化の最初の1億5000万年ほど。白亜紀前期には酸素が増えたのに昆虫はむしろ小型化しており、研究チームは空を飛ぶ鳥の登場による捕食圧を有力な説明として挙げています。
足元の虫は、肺ではなく体じゅうの管で息をしています。手のひらに乗るほどの大きさで止まっているのは偶然ではありません。
次に虫を見かけたら、その体の横に並ぶ小さな穴を探してみてください。
参考にした資料