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昆虫には肺がない、ではどこで息をするのか

2026年7月公開 · 2026年9月更新 · 読了7分
昆虫には肺がない、ではどこで息をするのか

昆虫には肺がありません。代わりに体の側面に並ぶ気門という穴から空気を取り込み、体じゅうに張りめぐらされた細い管が、酸素を細胞のすぐそばまで直接届けます。

血液が酸素を運ぶ私たちとは、根本から違うやり方です。この記事では、息の入口と通り道、水の中に住む昆虫の工夫、そしてこの仕組みが昆虫の体の大きさの上限まで決めている理由を順に説明します。

息の入口は体の横に並んでいる

気門は、胸と腹の側面に左右一対ずつ並んだ小さな穴です。基本の形は胸に3対、腹の最初の9節に9対。

ただし多くの種では胸の1節目と腹の9節目に気門がなく、実際には10対前後になります。それぞれの穴にはふたのような弁があり、小さな筋肉で開け閉めできます。必要なときだけ開く、扉つきの通気口です。

口は食べるための器官で、呼吸には使いません。昆虫が息をするのは、あくまで体の横の穴からです。

イモムシで気門を見つける

気門は、家の近くでも自分の目で確かめられます。いちばん見つけやすいのはチョウやガの幼虫、いわゆるイモムシです。

ミシシッピ州立大学の解説では、イモムシの体の横には腹の8対の気門が小さな点として並び、頭のすぐ後ろの胸の節にもう1対あると紹介されています。イモムシを横から見ると、節ごとに楕円の点が一列に並んでいるのがわかります。模様に見えていたものが、実は息の入口です。

オーストラリアの蝶類の解説サイトによると、イモムシは胸をふくらませて息を吸うのではありません。歩くときに体の節が縮んだり伸びたりする動きで、空気が気門から出入りします。

気管が細胞のそばまで枝分かれする

気門から入った空気は気管という管に入り、枝分かれをくり返しながら細くなっていきます。行き着く先は気管小枝という極細の管で、その先端が細胞にじかに接しています。

酸素は血にのせて運ばれるのではなく、空気のまま細胞まで届く。これが昆虫の呼吸の核心です。

イモムシの解説でも、片側の気門はすべて体の前後に走る太い気管の幹につながり、そこから各節へ枝分かれすると説明されています。1つの気門から入った空気が、体じゅうへ行き渡る配管です。

酸素を運ぶのは気管なので、昆虫の血(血リンパ)は酸素を運ぶ役目をほとんど持っていません。酸素を運ぶ赤血球がなく、血管の中ではなく内臓のすき間を流れています。私たちの体では肺と血液と血管が分担している仕事を、昆虫は気管という1つの仕組みでこなしているわけです。

管がつぶれないための工夫

細い管を体じゅうに通せば、体を曲げたときにつぶれてしまいそうに思えます。そこで気管の壁には、らせん状に走るクチクラの補強が入っています。

掃除機のホースと同じで、曲げても内側の通り道が確保される構造です。ノースカロライナ州立大学の昆虫学の教材も、この補強のおかげで管が折れ曲がらずに伸び縮みできると説明しています。

気管の一部はこの補強がなく、ふくらんで気嚢(きのう)という袋になります。気嚢は空気をためておく場所です。気門を閉じて水分を守るときの空気の蓄えになり、水にもぐる昆虫では浮き沈みの調節に使われます。脱皮と脱皮のあいだに体が成長するためのすき間にもなります。

昆虫も「息をしている」

小さな昆虫なら、空気は放っておいても管の中を拡散して届きます。ところが体が大きくなると、それだけでは足りません。

バッタやゴキブリの腹が規則的に伸び縮みしているのを見たことがあるでしょうか。あれは腹の筋肉で体の体積を変え、管の中の空気を押し出してはまた吸い込む、能動的な換気です。イギリスのアマチュア昆虫学会の解説も、大きな昆虫では拡散だけでは足りず、このポンプ運動が大きな役割を果たすと述べています。

逆に、気門をしばらく閉じたままにする昆虫もいます。「閉じる」「小刻みに開け閉めする」「大きく開けて二酸化炭素を吐き出す」の3段階をくり返す呼吸で、不連続ガス交換と呼ばれます。2022年に46種の研究をまとめた分析では、この呼吸には体から水分が逃げるのを減らす効果が認められました。

なぜ気門を閉じるのかについては、主に3つの説があります。乾燥から水分を守るため、二酸化炭素のたまりやすい土の中でも効率よく吐き出すため、そして酸素を取りこみすぎて体を傷めないため、という説です。この分析は、少なくとも水分を守る効果は実際にあることを数字で示しました。

水の中の昆虫はどう息をするか

水の中で暮らす昆虫も、もとをたどれば陸の昆虫と同じ気管を持っています。そのうえで、空気を水の中に持ちこむか、水に溶けた酸素を取りこむか、種ごとに違う工夫をしています。

水の中の昆虫の呼吸のしかた(ノースカロライナ州立大学 ENT 425 の解説をもとに作成)
方式おもな例しくみ
呼吸管蚊の幼虫(ボウフラ)、タイコウチ体の後ろの気門が管状にのび、水面に出してシュノーケルのように空気を吸う
空気の泡ゲンゴロウはねの下などに泡を抱えてもぐる。泡は少しずつ縮むので、ときどき水面に戻る
プラストロンヒメドロムシのなかま水をはじく細かい毛が体の表面に薄い空気の層を保ち、縮まないえらとして働く
気管えらカゲロウやイトトンボの幼虫、カワゲラ、トビケラ腹や胸に葉や糸の形のえらがあり、水に溶けた酸素を取りこむ
直腸えらヤンマなどトンボの幼虫(ヤゴ)おしりから水を出し入れし、腸の中のひだで酸素を取りこむ
ヘモグロビンユスリカの幼虫(アカムシ)血に赤いヘモグロビンを持ち、酸素の少ない池の底の泥でも酸素をとらえる

ヤゴは、おしりから水を勢いよく吐き出して前へ進むこともできます。呼吸の器官が、そのまま逃げるための推進装置を兼ねているわけです。

この仕組みが体の大きさを決める

ただし、気管の方式には限界があります。体が太くなるほど空気を届ける管は長く多く必要になり、やがて追いつかなくなるからです。空気が管の中を自然に広がる拡散は、短い距離なら速いものの、距離が2倍になると届くまでの時間はおよそ4倍かかります。ポンプ運動で補える範囲にも限りがあります。

イギリスのアマチュア昆虫学会の解説では、体の直径がおよそ3センチを超えると呼吸の需要をまかなえなくなり、昆虫の体の大きさを制限しているのは呼吸のしくみだ、と説明されています。古生代の石炭紀からペルム紀には翼を広げて70センチに達する昆虫がいて、当時の高い酸素濃度がそれを可能にしたと長く考えられてきました。

ただし2012年に米国科学アカデミー紀要で発表された1万点を超える化石の解析によると、酸素が体の大きさを左右したのは昆虫の進化の最初の1億5000万年ほど。白亜紀前期には酸素が増えたのに昆虫はむしろ小型化しており、研究チームは空を飛ぶ鳥の登場による捕食圧を有力な説明として挙げています。

よくある疑問

昆虫の血はなぜ赤くないのですか?
酸素を運ぶ役目がほとんどないからです。人の血が赤いのは、酸素を運ぶヘモグロビンが赤血球に入っているためです。昆虫は気管で酸素を細胞に直接届けるので、その仕組みを持っていません。例外はユスリカの幼虫で、酸素の少ない泥の中で暮らすために血にヘモグロビンを持ち、赤く見えます。
昆虫は息を止められますか?
気門の弁を閉じることで、しばらく外との空気の出入りを止められます。閉じているあいだは気管や気嚢にためた空気を使い、あとでまとめて二酸化炭素を吐き出します。こうした呼吸のしかたは、乾燥から体の水分を守るのに役立っています。
昆虫は口や鼻で息をしないのですか?
しません。昆虫の口は食べるための器官で、鼻にあたる器官もありません。空気の出入り口は、胸と腹の横に並ぶ気門だけです。

まとめ

昆虫は肺を持たず、体の横の気門から入れた空気を、枝分かれする気管で細胞まで直接届けています。血が酸素を運ばないので、血は赤くありません。水の中の昆虫は呼吸管や泡、えらを使い分け、それでも体の直径が3センチを超えると空気が届かなくなります。次にイモムシを見かけたら、体の横に並ぶ小さな点を数えてみてください。それが昆虫の息の入口です。

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