昆虫の耳が頭ではなく意外な場所にあるって本当か
昆虫の耳が頭にないのは本当です。バッタの耳はお腹に、コオロギやキリギリスの耳は前あしにあります。
カマキリにいたっては、胸の裏側に耳が一つしかありません。なぜそんな場所でも困らないのか、順に見ていきます。
耳に必要なのは膜と神経だけ
昆虫の耳は「鼓膜器官」と呼ばれます。うすい膜が音で震え、その下の感覚細胞が震えを神経の信号に変える。
必要なのはこの二つだけです。人の耳のように、頭の骨の中に小さな骨や渦巻き管を組み込む必要がありません。
だから神経がつながる場所なら、体のどこにでも作れます。昆虫の聴覚は進化の歴史のなかで20回以上、別々のグループで生まれたと考えられています。
種類ごとに耳の位置がばらばらなのは、そのためです。
バッタはお腹、コオロギは前あし
バッタの耳は、腹部の第1節の側面にあります。うしろあしの付け根の近くに、左右一つずつです。
いっぽうコオロギやキリギリスの耳は、前あしのすねの部分にあります。人でいえば、ひざのすぐ下にあたる位置です。
キリギリスの一種コピフォラ・ゴルゴネンシスの耳は、長さが1ミリの何分の1しかなく、動物界でも最小級とされています。
小さくても人の耳と同じ手順
2012年、英ブリストル大学のフェルナンド・モンテアレグレ=Z氏らが、このキリギリスの耳をCTで調べて科学誌サイエンスに発表しました。見つかったのは鼓膜、てこのように振動を伝える板、そして液体で満たされた細い管の三つです。
音を受け取り、増幅し、高さごとに分けるという人の耳と同じ手順が、あしの中に収まっていました。
コウモリの声を聞くための耳
カマキリの耳は、胸の裏側、うしろあしの間の真ん中に一つだけあります。左右に分かれていないため、一つ目の巨人にちなんで「キュクロプスの耳」と名づけられました。
報告したのはヤーガーとホイの2氏で、1986年のことです。よく反応するのは25〜45キロヘルツの超音波。
人には聞こえない高さで、コウモリが暗闇で獲物を探すときに出す声と重なります。ガも同じ相手に備えています。
ヤガの仲間は胸の後ろ側、シャクガやメイガの仲間は腹部の第1節に耳があります。ヤガの感覚細胞は片耳にA1・A2の2個だけで、音の高さを細かく聞き分けることはできませんが、20〜50キロヘルツにはよく反応します。逃げるという一つの仕事に絞りこんだ耳なのです。
鼓膜を持たない聞き方もある
耳を持つ昆虫は、実は少数派です。鼓膜がなくても音を感じる仲間もいます。
蚊は触角の付け根にあるジョンストン器官で、空気のゆれを直接とらえます。ここに集まった感覚細胞は約1万5000個で、鼓膜器官を持つ昆虫よりはるかに多い数です。
オスはこれで、飛んでいるメスの羽音を聞き分けています。
昆虫の耳が頭にないのは、頭でなくても困らないからです。膜と神経さえそろえば、お腹でも、あしでも、胸でも耳になります。
秋の夜にコオロギの声を聞いたら、その声は相手の前あしのひざで受け取られていると思い出してみてください。
参考にした資料
- Journal of Experimental Biology — Directional hearing in insects: biophysical, physiological and ecological challenges
- National Geographic — The insect that hears like a human, with ears on its knees
- Journal of Experimental Biology — The simple ears of noctuoid moths are tuned to the calls of their sympatric bat community