猫のゴロゴロには骨を治す力がある?癒しの周波数
猫のゴロゴロが骨を治すという話は、今のところ証明されていない仮説です。ただし、根拠のまったくない作り話でもありません。
猫が機嫌のいいときだけでなく、ケガから回復している最中にも喉を鳴らすのは事実だからです。どこまでが分かっていて、どこからが推測なのかを整理します。
機嫌がいいときだけ鳴らすわけではない
カリフォルニア大学デービス校の獣医学者レスリー・ライオンズが Scientific American に寄せた解説によれば、猫は子猫に授乳しているときや撫でられているときだけでなく、動物病院にいるときや、ケガから回復している最中にも喉を鳴らします。出産中に鳴らすことも知られています。
つまり「うれしい」の表現だと考えると、この行動はうまく説明できません。ここから、ゴロゴロには別の役目があるのではないかという疑問が生まれました。
毎秒20〜30回という低さの正体
ゴロゴロの低さは、猫の体の大きさに見合いません。謎の一部が解けたのは2023年10月です。
ウィーン大学のクリスティアン・ヘルプストらが学術誌カレントバイオロジーに発表した研究では、取り出した猫の喉頭に空気を流すだけで、神経の信号も筋肉の収縮もない状態で、ゴロゴロと同じ毎秒20〜30回の振動が生まれました。声帯には最大4ミリほどの「パッド」が埋まっています。
弾性繊維とコラーゲン繊維の塊で、声帯を重くして、小さな動物には出せないはずの低い音を可能にしているのです。人間の声でいう「フライ発声」に近い鳴り方です。
骨を治す説はどこから来たか
2001年、アメリカ音響学会の学会誌に「猫科のゴロゴロは治癒のしくみか」という報告が載りました。エリザベス・フォン・ムッゲンターラーが、チーターやピューマを含む44頭の猫科動物を録音し、25〜150ヘルツという周波数帯を測定したものです。
この帯域は、骨折の治療や骨密度を高めるために使われる振動療法の範囲と重なります。ここから「猫は自分で自分の体を治しているのではないか」という仮説が生まれました。
重なっているのは数字だけ
ただし、一致しているのは周波数の数字であって、効果そのものではありません。猫がゴロゴロと鳴らすことで自分の骨折が早く治る、と示した対照実験は行われていないからです。
振動療法に効果があることと、猫のゴロゴロに同じ効果があることは、別の話です。ライオンズ自身も、この考えを可能性として提示するにとどめています。
正確な位置づけは「否定もされていないが、実証もされていない仮説」です。「骨を治す力がある」と言い切ることはできません。
人にねだるときのゴロゴロは音が違う
実証されている効果もあります。2009年にカレン・マカムらがカレントバイオロジーに発表した研究によれば、餌をねだるときのゴロゴロには、低い音の中に高い周波数の鳴き声のような成分が混じっています。
同じ音量で聞かせたところ、猫を飼ったことのない人でも、この音を「切迫している」「心地よくない」と判定しました。その成分だけを取り除いて合成し直すと、切迫感の評価は下がりました。
猫は人間の反応を引き出すように、ゴロゴロを使い分けているのです。
次に猫が喉を鳴らしたら、音の高さに注意を向けてみてください。低くなめらかならくつろいでいる合図。どこか鋭い音が混じっていたら、たぶん何かを要求されています。
参考にした資料