科学

開発のヒントは囲碁だった、QRコードの日本生まれの技術

2026年7月 · 読了3分
開発のヒントは囲碁だった、QRコードの日本生まれの技術

世界中で使われているQRコードは、日本で生まれた技術です。開発したのは自動車部品メーカーのデンソーで、技術者の原昌宏さんを含むわずか2人のチームが1994年に発表しました。

基本の形を思いついたきっかけは、昼休みに打っていた囲碁の碁盤だったと本人が語っています。休憩中の遊びが、どうやって世界標準のコードになったのかを追いかけます。

なぜ新しいコードが必要だったのか

出発点は、工場の部品管理でした。それまで使われていた縦線のバーコードは、横方向にしか情報を持てません。

デンソーウェーブによると、記録できるのは英数字で20文字ほどです。そのため作業者は、1つの部品に貼られた何枚ものバーコードを次々と読み取る必要がありました。

その回数は多い人で1日に約1000回にのぼり、負担は小さくありませんでした。一度に大量の情報を読めるコードがほしい。

その現場の声が開発を動かしました。原さんが取りかかったのは1992年、与えられた条件は人員2人という厳しいものでした。

碁盤がくれた発想

原さんは昼休みに囲碁を打つのが習慣でした。碁盤に並ぶ黒と白の石を見ているうちに、縦と横の両方向を使えば情報量が一気に増えると気づきます。

日本学士院のインタビューでも「最初のヒントになったのは碁盤でした」と本人が語り、それが基本構造になったと説明しています。線の太さで表すバーコードから、マス目の白黒で表す二次元コードへ。着想の土台は、盤上に並んだ石でした。

三つの四角形が速さの秘密

QRコードの三隅にある「回」の形をした四角形は、切り出しシンボルと呼ばれます。読み取り機はまずこの印を探し、コードがどこにあってどちらを向いているかを一瞬で判断します。

だからQRコードは、上下左右どの向きからでも読み取れるのです。この四角形を線で横切ると、黒と白の幅の比が必ず1対1対3対1対1になります。

開発チームは世界中の印刷物を調べ上げ、この比率が帳票の中に最も現れにくいことを確かめました。書類の罫線や模様と取り違えないための、地道な調査の結果です。

汚れても読める仕組み

工場のコードは油で汚れ、店先のコードは破れます。そこでQRコードには、リードソロモン符号という誤り訂正の技術が組み込まれました。

データをあらかじめ重複させて記録しておき、欠けた部分を計算で復元する仕組みです。訂正の強さは4段階から選べます。

デンソーウェーブによれば、最も弱いレベルLで約7パーセント、最も強いレベルHなら約30パーセントまで復元できます。コードの一部が汚れても読み取れる場面があるのは、この余力があるからです。

特許を開放した判断

デンソーウェーブはQRコードの特許を持っています。しかし権利を行使しないと宣言し、規格に沿った使い方であれば誰でも無料で使えるようにしました。

できるだけ多くの人に使ってほしいという、開発者の考えを尊重した決断です。この開放があったからこそ、決済画面や乗車券、飲食店のメニューにまでQRコードが広がりました。

休憩中の囲碁、印刷物を一つずつ確かめる調査、権利を手放す決断。QRコードは、その積み重ねで世界に届きました。

次にスマートフォンでコードを読むときは、三隅の四角形に目を向けてみてください。碁盤から始まった工夫が、そこに残っています。

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