サメには骨が1本もない?体のヒミツ
サメの体には、私たちが持っているような硬い骨が1本もありません。背骨も、あごも、頭の骨も、すべて軟骨です。
ただし全身がぐにゃぐにゃなわけではなく、力のかかる部分は石灰化した小さなタイルで補強されています。この記事では、軟骨の骨格のしくみ、浮き袋なしで沈まない理由、骨がないのに年齢が分かる方法、そしてサメの祖先はむしろ骨を持っていたという研究までを順に説明します。
サメは「軟骨魚類」というグループ
魚は大きく2つに分けられます。タイやマグロのように硬い骨を持つ硬骨魚類と、サメ・エイ・ギンザメが属する軟骨魚類です。
軟骨は、私たちの耳や鼻の先にもある、半透明で弾力のある組織です。人間は硬い骨と軟骨を組み合わせて体を作りますが、サメは骨格のすべてを軟骨だけで組み立てています。
米国海洋大気庁(NOAA)によると、サメは約4億5,500万年前に海に現れたと考えられています。恐竜が現れるよりはるか前から、この体のつくりで生きてきました。
祖先は骨を持っていた
「骨がないのは原始的だから」と思われがちですが、研究はむしろ逆を示しています。
オーストラリア西部キンバリー地方のゴーゴー牧場で見つかった、約3億8,000万年前のサメの化石ゴゴセラクスでは、軟骨の粒をつなぐ部分に骨の細胞の名残が残っていました。調べたフリンダース大学の古生物学者ジョン・ロング氏は、サメは骨の多い祖先から進化し、骨を失うことで現在の姿になったと説明しています。
あごを持つ脊椎動物のうち最も古い仲間である板皮類(ばんぴるい)は、重い骨の骨格を持っていました。ロング氏は、サメが軽い軟骨の骨格へ進んだのは、速く泳いで敵から逃げ、獲物を素早く捕まえるためだったとみています。骨がないのは取り残された結果ではなく、手放した結果です。
軟骨は、やわらかいだけではない
全身が軟骨といっても、体がふにゃふにゃなわけではありません。力のかかるあごや背骨は「テッセラ」という小さなタイル状の粒で、びっしり覆われています。ハワイ州の資料も、背骨や頭の骨は石灰化が進んで強くなっていると説明しています。
学術誌ジャーナル・オブ・アナトミーに載った2016年の研究は、エイの一種を中心に、サメ4種を含む軟骨魚の骨格を調べました。粒は成長につれて大きくなり、幅は約75〜350マイクロメートル、厚さは約30〜250マイクロメートルになります。大きいもので0.35ミリほどです。
粒と粒のすき間は石灰化しない繊維の束でつながっていて、押す力にも引っぱる力にも耐えます。硬い粒の鎧と、しなやかなつなぎ目。硬さと曲がりやすさを同時に手に入れた構造です。
浮き袋がない代わりに、油づめの肝臓
多くの硬骨魚は「浮き袋」という気体の入った袋を持ち、そこで浮き沈みを調整します。サメにはこれがありません。ハワイ州の資料によれば、すべてのサメは海水よりわずかに重く、何もしなければ沈みます。
そこでサメは巨大な肝臓を持ち、海水より軽い油をたっぷりため込んでいます。肝臓は大きいものでは体重の約25パーセントを占め、油の主な成分はスクアレンです。外洋を泳ぐサメほど肝臓が大きく、軽い油を多く抱えています。
スクアレンは種類によって油の最大90パーセントを占めます。人間はこの油を保湿用のローションなどに使ってきました。その結果、油を目的に獲られてきたウバザメなど3種は、とりすぎによって絶滅危惧種や近絶滅種に指定されています。浮くための仕組みが、皮肉にも狙われる理由になりました。
骨より軽い軟骨の骨格も、沈む力を減らす助けになります。残りの沈む力は泳ぎで打ち消します。硬くて広げたままの胸ビレは、前に進むときに体を持ち上げる力を生みます。
例外もいます。シロワニというサメは水面で空気を飲み込んで胃にため、ほぼ浮きも沈みもしない状態をつくって、海底の上でほとんど動かずに漂います。こうした方法をとる例は、ほかのサメでは知られていません。
数字で見るサメの体
ここまでの話を含め、サメの体のつくりを数字で並べると次のようになります。
| 項目 | 数字 | 意味 |
|---|---|---|
| サメが現れた時期 | 約4億5,500万年前 | 恐竜よりはるかに古い |
| 骨格を覆う粒(テッセラ)の幅 | 約75〜350マイクロメートル | 成長につれて大きくなる |
| 肝臓の重さ | 大きいもので体重の約25パーセント | 軽い油で浮き袋の代わりをする |
| ホホジロザメの歯 | 約300本 | 生きている限り何度でも生え替わる |
| メジロザメが一生に作る歯 | 約3万5,000本 | 抜けた歯が化石として大量に残る |
| ロレンチーニ器官の穴 | 直径約1ミリ、数十〜数百個 | 周りの弱い電気や磁気を感じ取る |
カルシウムは歯とウロコに回されている
サメの体からカルシウムが消えているわけではありません。骨に使わない分は、歯と皮膚に回されます。
豊海おさかなミュージアムによると、ホホジロザメの歯は約300本。エスカレーターのように次々と立ち上がり、生きている限り何度でも抜け替わります。体表を覆う「楯鱗(じゅんりん)」というウロコは、象牙質とエナメル質でできていて、歯とほぼ同じつくりです。
サメ肌がヤスリのようにざらつくのはそのためです。楯鱗は身を守るだけでなく、泳ぐときの水の乱れと抵抗を減らす働きもあります。NOAAによると、楯鱗は1枚1枚が尾の方向を向いて並んでいます。そのため頭から尾へなでるとなめらかで、尾から頭へなでるとざらつきます。水族館のタッチプールでサメに触れる機会があれば、向きを変えて確かめてみてください。
サメの化石が歯ばかりな理由
軟骨は骨に比べて化石として残りにくい組織です。ロング氏も、初期のサメの化石記録は主にばらばらのウロコと歯に頼っていると書いています。
ただし、まったく残らないわけではありません。NOAAによると、多くのサメは年を取るにつれて軟骨にカルシウムの塩を沈着させて強くします。この鉱物のおかげで、骨格が化石になることもあります。
それでも数で圧倒するのは歯です。メジロザメは一生に約3万5,000本の歯を作るとされ、しかもエナメル質で覆われているので地層に残ります。歯の形は種類ごとに違うため、歯の化石だけでも、どんなサメがいたかを調べる手がかりになります。骨を手放したことは泳ぐサメには有利に働き、その過去を調べる人間には不利に働きました。
よくある疑問
- 骨がないのに、サメの年齢はどうやって調べるのですか?
- 背骨の軟骨にできる輪を数えます。石灰化した背骨には、不透明な帯と半透明な帯が対になった同心円ができ、木の年輪のように数えて年齢を推定します。ただし1対を1年とみなせるかは、種類や大きさごとに確かめる必要があるとされています。
- サメは泳ぎ続けないと死んでしまうのですか?
- 種類によります。ホホジロザメなど一部のサメは口の筋肉で水を送り込めず、前に進むのをやめると窒息します。海底で休むタイプのサメは、頭の上にある噴水孔(ふんすいこう)から水を取り込んで呼吸を続けられます。
- エイにも骨はないのですか?
- ありません。エイもサメと同じ軟骨魚類で、骨格は軟骨です。この記事で紹介したテッセラの研究も、エイの一種を中心に調べたものです。
まとめ
サメの骨格はすべて軟骨ですが、あごや背骨は幅0.08〜0.35ミリほどの石灰化したタイルで補強されています。浮き袋がない代わりに、大きいもので体重の約25パーセントに達する油の肝臓と、軽い軟骨と、胸ビレの揚力で沈む力を打ち消しています。3億8,000万年前の化石は、サメの祖先がむしろ骨を持っていたことを示しています。次に水族館でサメを見るときは、胸ビレを水平に張って進む姿や、シロワニが水中でじっと漂う姿に注目してみてください。
参考にした資料
- ハワイ州土地天然資源局 — Skeleton & Buoyancy
- Journal of Anatomy (2016) — Ultrastructural and developmental features of the tessellated endoskeleton of elasmobranchs
- 豊海おさかなミュージアム(東京水産振興会) — サメの特殊なカラダのつくり
- NOAA Fisheries(米国海洋大気庁) — 12 Shark Facts That May Surprise You
- NOAA Fisheries(米国海洋大気庁) — Fun Facts About Shocking Sharks
- The Conversation(フリンダース大学 ジョン・ロング) — No bones about it: sharks evolved cartilage for a reason
- Wikipedia(英語版) — Shark anatomy
- Aquarium of the Pacific — Sand Tiger Shark
- Wikipedia(英語版) — Shark liver oil