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トンボはなぜ空中でぴたりと止まっていられるのか

2026年7月 · 読了3分
トンボはなぜ空中でぴたりと止まっていられるのか

トンボが空中でぴたりと止まれるのは、4枚の翅を1枚ずつ別々に動かせるからです。多くの昆虫は前後の翅をひとつのペアとして羽ばたかせますが、トンボは違います。

翅の1枚ごとに専用の筋肉がつながっていて、速さも角度もタイミングも個別に決められるのです。だから前へも後ろへも進めますし、その場に留まることもできます。

翅1枚ごとに筋肉がついている

トンボの翅は、前の2枚(前翅)と後ろの2枚(後翅)に分かれています。その付け根それぞれに飛ぶための筋肉が直接つながっていて、1枚単位で動かせます。

東京工科大学の研究グループも、前翅と後翅を独立して制御できる点をトンボの大きな特徴として挙げています。スズメガのように前後の翅をペアで動かす昆虫とは、体のつくりからして違うのです。

止まるときは前と後ろを逆に打つ

空中で静止しているとき、トンボは前翅と後翅を逆のタイミングで打っています。片方が下りるとき、もう片方は上がる。

この打ち消し合いで体の上下の揺れが小さくなり、残る力が上向きにそろいます。前へ進みたいときは前後の打つタイミングをずらし、加速したいときは4枚をそろえて打つ。

同じ翅でも動かし方を変えるだけで、飛び方が切り替わるわけです。

4枚あると22パーセント得をする

2008年、英国のアッシャーウッドとドイツのレーマンは、機械仕掛けのトンボ模型で翅の打つタイミングをずらす実験を行いました。後翅が前翅より4分の1周期ほど先に動くと、前翅が後ろへ捨てた横向きの空気の流れを後翅が拾い、上向きの力に変えます。

その結果、同じだけ浮き上がるのに必要な力が、前翅だけの場合より約22パーセント少なくて済みました。2枚を無駄に増やしているのではなく、後ろの2枚が前の2枚の食べ残しを回収しているのです。

後ろ向きに飛ぶときの姿勢

高速度カメラの撮影から、後退するトンボは体を水平から90度近くまで起こすことが分かっています。体を立てれば、羽ばたきで生まれる力の向きも後ろへ傾きます。

この機動力は狩りに直結していて、2013年の実験ではトンボが放たれた獲物の約95パーセントを捕らえました。フクロウやハヤブサといった猛禽類の成功率が2割台とされるのに比べると、桁違いの数字です。

手本になっているのは旅客機ではない

トンボの飛び方が生かされているのは、旅客機のような大型機ではありません。主な応用先は、手のひらに載るような羽ばたき型の小さな飛行ロボットです。

東京工科大学の野田龍介講師らは2023年、トンボが敵から逃げるときの飛び方を数値計算で解き明かし、専門誌ジャーナル・オブ・フルイド・メカニクスに発表しました。後翅が大きく傾いて空気をつかみ、前翅が作った気流がその渦を安定させる、という仕組みです。

回転翼のドローンより静かで安全な機体をつくる手がかりとして期待されています。

次に空中で止まっているトンボを見かけたら、4枚の翅がそれぞれ別の仕事をしていることを思い出してみてください。静止して見える一瞬の裏側で、前翅と後翅は逆向きに動き続けています。

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