ウナギはどこで産卵するのか、2000キロの旅の謎
食卓に並ぶウナギが、どこで卵を産むのか。この問いに答えが出たのは、ほんの十数年前のことです。
2009年5月、東京大学の研究チームが日本から2000キロメートル以上離れた太平洋で、世界で初めて天然のウナギの卵を採集しました。場所は西マリアナ海嶺という、海底にそびえる山脈の南の端でした。
2000年以上続いた謎
ウナギの産卵は、古代ギリシャの哲学者アリストテレスの時代から謎でした。川や湖でどれだけウナギを捕まえても、卵を抱えた個体が一匹も出てこないからです。
日本で本格的な調査が始まったのは1973年、東京大学の研究船・白鳳丸による航海でした。産卵する海域がしぼり込まれたのが1991年、そこから実際の卵にたどり着くまでに、さらに18年かかっています。
途中の2005年には、全長4ミリから6ミリほどの仔魚が採集されました。目も口もまだできていない、孵化から数日の個体です。
卵が見つかった一点
産卵場所は西マリアナ海嶺の南端、北緯15度あたりの海域です。水深4000メートルの海底から富士山ほどの高さの海山が連なる場所で、2009年5月に31粒、2011年6月には147粒の卵が採集されました。
目印は海山と新月
広い太平洋で、ウナギはなぜこの一点に集まれるのでしょうか。手がかりは2つあります。
海山の列と、海水の塩分が急に変わる「塩分フロント」という境目です。この2つが交わるあたりが産卵地点でした。
時期も決まっていて、産卵は新月の数日前に集中します。深さも水深150メートルより下です。
暗い夜と暗い深さを選ぶ理由は、卵や仔魚が敵に見つかりにくいためという仮説が立てられていますが、まだ確定していません。新月との関係を確かめたのは、耳石という体内の小さな組織です。
ここには木の年輪に似た模様が1日ずつ刻まれ、孵化した日を逆算できます。
柳の葉の姿で日本へ
孵化した仔魚はレプトセファルスと呼ばれ、透明で平たく、柳の葉のような形をしています。自力で長い距離を泳ぐ力はありません。
まず北赤道海流に乗って西へ運ばれ、途中で黒潮に乗り換えます。6か月ほどかけて東アジアの沿岸に着くと、細長い円筒形のシラスウナギに姿を変え、満ち潮に乗って川へ入ります。
私たちが目にするウナギは、この旅を終えた個体です。
帰りは片道切符
川や沿岸で数年から十数年を過ごしたウナギは、秋から冬に「銀ウナギ」へ姿を変えて旅立ちます。マリアナの産卵場までおよそ半年。
東京大学は、この往復を6000キロメートルに及ぶ長旅と説明しています。産卵を終えた親ウナギは、そのまま一生を閉じます。
旅を完走できる個体は減り続け、環境省は2013年、ニホンウナギを絶滅危惧IB類に指定しました。3世代(12〜45年)で漁獲量が50パーセント以上減ったと推定されたためです。
産卵場所は分かりました。それでも、ウナギが2000キロ先の一点をどうやって目指すのかは解けていません。
次にウナギを口にするときは、その一匹が渡ってきた海の広さを思い浮かべてみてください。
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