ラジオで流す曲の一定割合を自国の音楽にする、カナダの決まり
カナダの民間ラジオ局は、1週間に流すポピュラー音楽の35パーセント以上をカナダ産にしなければなりません。放送局の心がけではなく、放送免許にひもづいた規則です。
始まったのは1971年。自国の音楽家がアメリカの音楽に埋もれてしまう、という危機感から生まれました。
誰が、いつ決めたのか
決めたのは、放送と通信を監督する政府機関CRTC(カナダ・ラジオテレビ通信委員会)です。1971年、ラジオ局に一定量のカナダ産音楽を流すよう義務づけました。
当初の基準は25パーセント。1980年代に30パーセントへ、1999年1月3日からは35パーセントへと引き上げられています。
対象は民間の商業局だけではありません。地域のコミュニティ局や大学局も同じ35パーセントが基準です。
公共放送のCBCはさらに厳しく、週に50パーセント以上が求められます。
カナダの曲かどうかは4文字で決まる
難しいのは、何をもって「カナダの曲」とするかです。歌手がカナダ人ならいいのか、録音した場所は関係あるのか。
CRTCはMAPLと呼ばれる4つの条件で判定します。M(Music)は作曲者がカナダ人であること。
A(Artist)は歌や演奏の主役がカナダ人であること。P(Performance)はカナダ国内で録音されたか、国内で演奏して生放送されたこと。
L(Lyrics)は作詞者がカナダ人であることです。
4つのうち2つ以上を満たせば、その曲はカナダ産と認められます。1つでは足りません。
有名歌手が「カナダ産ではない」と判定された
カナダ人が歌えば通る、という単純な基準ではありません。1991年、カナダ出身のブライアン・アダムスが発表したアルバム『Waking Up the Neighbours』は、カナダ産と認められませんでした。
作詞と作曲を南アフリカ出身のプロデューサー、ロバート・ジョン・ラングと共同で手がけ、録音もカナダ国内で完結していなかったためです。この一件を受けて、1991年9月1日より後の録音については、カナダ人が作曲と作詞の両方で半分以上の権利を持ち、AかPのどちらかを満たしていればカナダ産と認める、という規定が加えられました。
抜け道をふさぐ時間帯の規則
割合を守るだけなら、深夜に自国の曲をまとめて流すという手が残ります。そこでCRTCは時間帯にも条件を付けました。
月曜から金曜の午前6時から午後6時までの間も、ポピュラー音楽の35パーセント以上をカナダ産にしなければなりません。人が最もラジオを聴く時間に、きちんと自国の音楽が流れる形にしたわけです。
例外もある
35パーセントが当てはまるのは、ポップスやロックなどの「ポピュラー音楽」です。クラシックやジャズは「特別分野の音楽」として別に扱われ、民間局に求められる割合は、全体で10パーセント以上、クラシックの管弦楽曲で25パーセント以上、ジャズとブルースで20パーセント以上と分野ごとに変わります。
曲の作られ方や歴史が違えば、無理のない数字も変わるということです。
ラジオから流れる曲の3曲に1曲が自国の音楽。この割合は自然にそうなったのではなく、50年以上かけて数字で決められてきたものです。
カナダの放送を聴く機会があれば、知らない名前の歌手が続いても、それが仕組みの結果だと思い出してみてください。
参考にした資料