タクシーで音楽を流すと運転手が料金を払う、フィンランドの話
フィンランドでは、タクシーの車内で音楽を流すと運転手の側が使用料を払います。うわさ話ではなく、2002年にフィンランド最高裁が出した判断にもとづく決まりです。
理由は、客を乗せている車内が著作権法でいう「公の場」とみなされるから。今もタクシー1台あたり月8ユーロほどのライセンスが売られています。
発端は1人の運転手の拒否
話は1990年代にさかのぼります。ヘルシンキのタクシー運転手で、運転手協会の会長でもあったラウリ・ルオトネン氏が、著作権管理団体テオストから届いた1997年分と1998年分の請求を払わなかったのです。
テオストの言い分はこうでした。客に向けて車内で音楽を流すのは、レストランやパブで音楽を流すのと変わらない。
対する運転手側は、自分の車の中は私的な空間だと考えていました。この食い違いが裁判に持ち込まれ、争点は「タクシーの車内は公の場か」という一点にしぼられていきます。
2002年12月、最高裁の判断
決着がついたのは2002年12月3日です。フィンランド最高裁は判例KKO:2002:101で、客を乗せている間にタクシーで流す音楽は著作権法上の「公の演奏」にあたると判断しました。
決め手は、その演奏が運転手の職業活動と結びついている点です。仕事の一部として音楽を聞かせている以上、私生活と同じようには扱えない、という理屈でした。
金額については、地裁と高裁が年およそ40ユーロと命じていたものを、最高裁は年22ユーロに減らしています。この判決は先例となり、以後フィンランドのタクシー全体に適用されました。
お金は誰に届くのか
フィンランドの音楽使用料は、性格の違う2つの団体が集めます。テオストが配るのは作曲家・作詞家・編曲家・音楽出版社の分。
グラメックスが配るのは、その録音で演奏した人と、レコードを作った製作者の分で、取り分は半分ずつです。曲を書いた人と、実際に鳴らした人の両方にお金が回る設計になっています。
だから、タクシーで音楽を流すには2種類の許諾が必要です。
今の料金は月8ユーロほど
現在、この2団体は musiikkiluvat.fi という共同運営の窓口で、まとめてライセンスを売っています。2026年の価格表では、タクシー1台あたり1か月でグラメックスが3.90ユーロ、テオストが3.96ユーロ。
合計7.86ユーロで、これに付加価値税が加わります。1年に直すとおよそ94ユーロです。
音源の種類は問われず、ラジオでもCDでも携帯プレーヤーでも同じ扱い。車内でテレビなどの映像機器を使う場合は、月1.29ユーロが上乗せされます。契約の最小単位は1か月です。
私的に聴く分は対象外
では、運転手が1人でいるときに音楽を聴くのも有料なのか。そうではありません。
最高裁が公の演奏と認めたのは、あくまで客を乗せている間に流す音楽です。グラメックスも、結婚式のような私的な集まりには許諾が要らないと説明しています。
境目は「仕事として、身内でない相手に聞かせているかどうか」。同じ1曲でも、誰に向かって鳴っているかで扱いが変わります。
タクシーで流れる音楽は、運転手が毎月払っている使用料の上で鳴っています。次にフィンランドで車に乗ることがあれば、車内の一曲を少しだけ違う耳で聞いてみてください。
参考にした資料