かかとの高い靴で古代遺跡に入れない、ギリシャの決まり
ギリシャの古代遺跡では、かかとの高い靴で入ることができません。おしゃれの話ではなく、理由は物理です。
細いヒールは体重をごく狭い面積に集中させ、2400年以上前の大理石の表面を削ってしまいます。2009年にギリシャ当局が定めた制限として、各国で報じられました。
2009年に始まった制限
アメリカの公共ラジオNPRは2009年5月、ギリシャ当局が考古遺跡でのかかとの高い靴と飲食物を禁止したと伝えました。理由はいずれも、遺跡に与える損傷です。
対象はアテネのアクロポリスをはじめとする主要な遺跡で、ディオニュソス劇場やヘロデス・アッティコス音楽堂といった、いまも公演に使われる場所も含まれます。特別な新法ができたわけではなく、遺跡の管理規則として運用されているものです。
ヒールの下にかかる力
石にかかる圧力は、体重を接地面積で割った値です。ピンヒールの先は1平方センチほどしかなく、体重がそこに一点集中します。
面積が小さいほど、同じ体重でも石を押す力は強くなります。
ざっと計算してみます。体重60キロの人がヒールの先だけで体を支えると、1平方センチあたり60キロ近い力がかかります。
一方、体重4トンのゾウは4本の足で体を支え、足の裏は1枚が1000平方センチ前後。1平方センチあたりでは1キロほどにしかなりません。
人間のほうが桁違いに強く石を押しているわけです。スニーカーの底が広いのも同じ理屈で、体重を数百平方センチに分散させています。
同じ人が同じ場所を歩いても、履いている靴で石にかかる負担はまったく変わります。
大理石は思ったより柔らかい
パルテノン神殿は、アテネ近郊のペンテリコン山で採れた大理石で造られています。着工が紀元前447年、建物が完成したのが紀元前438年で、装飾まで終わったのが紀元前432年です。
大理石の主成分は方解石などの炭酸塩鉱物で、英語版ウィキペディアは大理石を「柔らかく多孔質で、傷がつきやすい」と説明しています。石だから頑丈だという印象とは違い、とがったもので点として押されれば欠けます。
しかも一度削れた表面は元に戻りません。アクロポリスでは1975年から大規模な修復事業が続いていますが、修復は失われたものを取り戻す作業ではなく、これ以上失わないための作業です。
「900ユーロの罰金」は裏づけがない
旅行系のメディアでは「違反すると最大900ユーロの罰金」という金額がよく紹介されます。ただしこの数字は、ギリシャ政府の公開資料では確認できません。
広く語られてはいますが、裏づけの取れない俗説として扱うのが安全です。報道で確認できるのは、係員に靴を脱ぐよう求められたり、履き替えるまで入場を断られたりする対応のほうです。
何を履いていけばよいか
底が平らな靴なら問題ありません。スニーカーやトレッキングシューズが向いています。
アクロポリスは丘の上にあり、地面は岩肌と石畳がむき出しで平らではありません。ヒールは遺跡を傷つけるだけでなく、自分が足をひねる危険もあります。
夏場は日差しも強く、歩きやすい靴のほうが単純に快適です。
遺跡を守る決まりには、たいてい物理的な理屈があります。ギリシャへ行くなら、荷物にヒールではなく歩きやすい靴を一足入れてください。
それだけで、2400年前の石を削らずに帰ってこられます。
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