電子レンジの誕生は、溶けたチョコがきっかけだった?
電子レンジは、レーダーの研究から生まれた道具です。1945年、アメリカの技術者パーシー・スペンサーが、レーダー用の電波を出す装置のそばでポケットの菓子が溶けているのに気づきました。
ただし、その菓子がチョコだったかどうかは、資料によって食い違います。溶けた菓子が台所の家電になるまでには、22年かかりました。
溶けたのはチョコだったのか
スペンサーが勤めていたのは、アメリカのレイセオン社です。当時の同社は、レーダー用のマグネトロンという電波発生装置を大量生産していました。
その装置のそばに立っていたとき、ポケットの中の菓子が溶けたのです。
広く語られているのは「チョコレートの菓子が溶けた」という話です。ところがスペンサーの孫は、溶けたのはチョコではなく、ピーナッツを固めた菓子だったと語っています。
祖父がリスに分けてやるため毎日持ち歩いていたから、という理由です。どちらが本当かを決める記録は残っていません。
菓子の種類は俗説の域を出ない、と考えるのが正確です。
ポップコーンと卵で確かめた
スペンサーは気づきで終わらせませんでした。装置のそばにトウモロコシの粒を置くと、粒がはじけてポップコーンになります。
次に卵を試すと、内側から膨らんで殻が割れました。表面から焼けているのではなく、食品そのものが発熱している証拠です。
レイセオン社は1945年10月8日、「食品の処理方法」と題した特許を出願します。発明者はパーシー・L・スペンサー、登録は1950年1月24日。これが電子レンジの土台になった特許です。
電波は食べ物の内側から温める
仕組みは誘電加熱と呼ばれます。マイクロ波の電場は、1秒間に何十億回も向きを変えます。
水のように電気的な偏りを持つ分子は、その向きに合わせて回ろうとして揺さぶられます。回された分子どうしがぶつかり、その乱れた動きが熱になる。これが電子レンジの庫内で起きていることです。
熱源から食品へ熱が伝わるのではなく、食品自体が内側から発熱します。ガスコンロやオーブンより温まりが速いのは、この違いによります。
「水の共振周波数」という誤解
家庭用の電子レンジは2.45ギガヘルツ前後の電波を使います。これを「水分子の共振周波数に合わせてある」と説明されることがありますが、この説明は誤りです。
ウェストテキサスA&M大学の解説によれば、水の最初の共振ピークは1テラヘルツより高い領域にあり、2.45ギガヘルツとは桁が違います。
この周波数が選ばれたのは物理的な必然ではなく、電子レンジに使ってよい帯域として規則で割り当てられたからです。むしろ共振周波数だったら困ります。
電波が表面で吸い尽くされ、中心まで熱が届かなくなるからです。
台所に届くまで22年
1947年、レイセオン社は業務用の第一号機「レーダーレンジ」を発売します。高さ約1.8メートル、重さ約340キロ、マグネトロンを水で冷やす必要がありました。
価格は約5,000ドル。家庭に置ける代物ではありません。
1955年には家庭向けモデルが1,295ドルで登場しますが、ほとんど売れませんでした。転機は1967年です。
レイセオン傘下のアマナが、110ボルト電源で動くカウンター型を495ドルで発売しました。幅50センチ、高さ40センチ、奥行き30センチ。
ここでようやく、電子レンジは台所の家電になりました。
電波のそばで物が温まる現象に気づいた人は、他にもいたと言われます。スペンサーが違ったのは、その理由を確かめにいったことです。
次に温めボタンを押すときは、庫内で揺さぶられている水分子のことを思い出してみてください。
参考にした資料