科学

夏に溶けるゴムが、ストーブの偶然で生まれ変わった?

2026年7月 · 読了3分
夏に溶けるゴムが、ストーブの偶然で生まれ変わった?

むかしのゴムは、夏になると溶けてべたつき、冬になると硬くひび割れる素材でした。それを変えたのが、1839年にアメリカで起きた出来事です。

チャールズ・グッドイヤーが、ゴムと硫黄を混ぜたものを熱いストーブの上に落としてしまいます。焦げるはずのゴムは、弾力を保ったまま固まっていました。

溶けるゴム、割れるゴム

ゴムはゴムノキの樹液から作られます。水を通さず伸び縮みするので、19世紀前半のアメリカでは防水の靴やコートが売り出されました。

ところが売れたのは最初だけです。夏の暑さで表面が溶けてべたつき、冬の寒さで硬くなって割れてしまいました。

商品にするには不安定すぎたのです。金物商として破産していたグッドイヤーは、この弱点をなくす方法を探しはじめます。

硫黄を先に使った人がいた

硫黄を使う発想は、グッドイヤーが一から思いついたものではありません。同じアメリカのナサニエル・ヘイワードが、ゴムに硫黄を加えるとべたつきが減ることを見つけていました。

グッドイヤーは1838年、その権利を3,000ドルで買い取ります。ただし、ゴムと硫黄を混ぜるだけでは、夏に溶けて冬に割れる弱点は消えませんでした。足りない条件がもう一つありました。

ストーブの上で起きたこと

1839年、マサチューセッツ州ウォーバーンで、グッドイヤーはゴムと硫黄の混合物を熱いストーブの上に落とします。溶けて流れるはずのゴムは、革のような手ざわりで弾力を保ったまま固まっていました。足りなかった条件は「熱」だったのです。

ただし、その日に完成したわけではありません。どのくらいの温度でどれだけ加熱すればよいかを詰めるのに、さらに数年かかりました。

アメリカで特許を出願したのは1844年1月30日、特許が成立したのは同年6月15日です。

硫黄は何をしているのか

生のゴムの中では、長い分子の鎖がただ絡まり合っているだけです。引っ張ると鎖どうしが滑ってずれるため、いったん伸びると形が戻りません。

熱が加わればなおさら滑りやすくなり、夏に溶けたのはこのためです。ここに硫黄を加えて熱すると、硫黄の原子が鎖と鎖のあいだに橋を架けます。

これを架橋と呼びます。橋でつながれた鎖は、伸びても元の位置に引き戻されます。

これが「引っ張っても戻る」弾力の正体です。橋のかけ方でも性質は変わり、硫黄の橋が短いほど熱に強く、長いほど柔らかい代わりに熱に弱くなります。

本人は「偶然」を認めなかった

ストーブの逸話は広く知られていますが、グッドイヤー自身は違う説明をしています。1853年から刊行した自著の中で、この発見は偶然ではなく、観察と粘り強い試行の結果だと主張しました。

どちらが正しいかを決められる記録はありません。確かなのは、彼が何年もゴムと薬品を混ぜ続けていたからこそ、ストーブの上の小さな変化を見逃さなかったという点です。

発明者に残らなかった富

特許を取ってからも苦労は続きました。イギリスではトーマス・ハンコックが1843年11月21日に同じ加硫の特許を出願しており、グッドイヤーがアメリカで出願する約2か月前のことでした。

グッドイヤーは各国で特許侵害の裁判を戦い続け、1860年に約20万ドルの借金を残して亡くなります。加硫を意味する英語バルカナイゼーションは、ローマ神話の火の神ウルカヌスにちなむ名で、ハンコックの友人ウィリアム・ブロッケドンが提案したものです。

真夏のアスファルトの上でも靴底やタイヤが形を保つのは、1839年に見つかった硫黄の橋のおかげです。1898年に創業したグッドイヤー社の社名も彼への敬意から付けられたもので、血縁関係はありません。

発明者が受け取れなかった評価は、素材の側に残りました。

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