割れても飛び散らないガラスは、落としたフラスコから?
割れても破片が飛び散らないガラスは、合わせガラスと呼ばれます。考案したのは、フランスの化学者エドゥアール・ベネディクトゥスです。
きっかけは、薬品の入ったフラスコを床に落とした失敗だったと語られてきました。ただしこの逸話は本人の回想が出どころで、歴史の記録による裏づけは弱いままです。
床に落ちたフラスコ
フラスコの中身は、ニトロセルロースという樹脂を溶かした液でした。液が蒸発したあと、内側には薄い膜が残っていたといいます。
ふとした拍子に床へ落としたところ、フラスコはひび割れながらも形を保っていました。破片が膜に張り付いて、その場から離れなかったのです。
ベネディクトゥスがこの体験を書き残したのは、発見から30年近くたった1930年のことでした。
逸話はどこまで本当か
この発見物語は、歴史の事実というより伝説に近いと指摘されています。近年の研究は当時の記録をたどり直し、通説どおりの経緯ではなかったと結論づけました。
はっきりしているのは、彼が1909年に特許を出願したことです。ガラス片で女性2人が重傷を負った自動車事故を知ったことが動機だったと伝えられています。
製品はトリプレックスの名で世に出て、1912年にはイギリスの会社へ技術が渡りました。第一次世界大戦では、ガスマスクの覗き窓にも使われています。
割れ方を決める中間膜
合わせガラスは、2枚のガラスで樹脂の膜をはさんだ構造です。割れても膜が破片を抱えたままなので、穴があきにくく、飛び散りません。
ひびがクモの巣のように広がるのは、この膜が破片をつなぎ止めているからです。
飛び散らないことは、見た目以上に大きな意味を持ちます。自動車事故で怖いのは、衝突そのものより飛んできたガラス片による切り傷だからです。
同じ理由で、合わせガラスは天窓や、台風の多い地域の窓にも選ばれています。
強化ガラスとは仕組みが違う
同じ安全ガラスでも、強化ガラスは考え方が違います。ガラスを620度ほどまで熱し、そこへ空気を吹きつけて一気に冷やします。
表面が先に固まるため、表面には押し縮める力、内部には引っ張る力が残ります。この状態のガラスはふつうの板ガラスの約4倍の強さになり、割れるときは角の丸い粒になって崩れます。
考案されたのは合わせガラスより早く、1874年のフランスでした。自動車では前面が合わせガラス、側面と後面が強化ガラスと使い分けられています。
セルロイドからPVBへ
初期の中間膜はセルロイドで、時間がたつと黄ばむ弱点がありました。1927年にポリビニルブチラール、略してPVBという樹脂が登場し、1936年ごろまでに中間膜の主役が入れ替わります。
PVBは透明さが長持ちするうえ、紫外線をよく吸収します。フロントガラスでは紫外線の97パーセント以上を遮り、音も通しにくくなります。割れにくさだけが目的ではなくなったわけです。
フラスコの逸話は、確かめきれない部分を残しています。それでも合わせガラスが人を守ってきた事実は変わりません。
次に自動車の前面ガラスを見るときは、2枚の間にはさまれた透明な膜を思い出してみてください。
参考にした資料