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サケはなぜ生まれた川に帰れるのか、旅の謎

2026年7月 · 読了3分
サケはなぜ生まれた川に帰れるのか、旅の謎

サケが生まれた川を見分ける最大の手がかりは、においです。稚魚のころに覚えた母川のにおいを、数年後の帰り道でたどります。

この部分の仕組みはすでに実験で確かめられています。まだ解けていないのは、その手前にある「広い海の上で方角をどう決めるか」のほうです。

川で生まれ、海で育つ

サケは川で生まれ、しばらく川で過ごしたあと海へ下ります。北の海で数年かけて体を大きくし、産卵のために生まれた川へ戻ってきます。

この習性が母川回帰です。日本大百科全書は「川で生まれた魚が海に下り、一定期間を経て同じ河川系に戻る習性」と定義しています。

戻る年齢は一定ではなく、2歳から8歳まで幅があり、4歳での回帰がもっとも多くなっています。

においを覚えるのは、川を出る直前

有力なのは嗅覚刷り込み説です。稚魚は川を下る直前のごく短い期間に、母川の水のにおいを記憶します。

この記憶づけは嗅覚を通じて脳に刷り込まれます。日本大百科全書によれば、必要な時間は数時間から2日以内という短さです。

この説を実験で確かめたのは、アメリカの生物学者アーサー・デイビス・ハスラー(1908〜2001)とアラン・T・ショルツで、1983年のことでした。

においの正体はアミノ酸

では、川のにおいとは具体的に何でしょうか。北海道大学の上田宏氏は、バイオメカニズム学会誌(2007年)に載せた論文で、川の水に溶けているアミノ酸の組成が川ごとに違い、サケがそれを嗅ぎ分けていることを報告しました。

同じ論文では、脳から出るサケ型生殖腺刺激ホルモン放出ホルモン(sGnRH)が帰る行動そのものを調節していること、視覚を使ってまっすぐ回帰する行動があることも示されています。においだけで説明できる現象ではありません。

においが役に立つのは、河口の近くまで来てからです。外洋から沿岸まで数千キロを移動する区間では、母川のにおいは届きません。

この長い区間をどう泳ぐのかが、母川回帰の最大の空白になっています。

海の上で方角を決める仕組み

候補は2つあります。ひとつは地磁気です。

2013年に学術誌カレントバイオロジーで発表された研究は、カナダのフレーザー川に戻るベニザケの漁獲データ56年分を分析し、サケが選ぶ回遊ルートが地磁気の変化から予測できることを示しました。海に出た地点の磁場を覚えている、という考え方です。

もうひとつは太陽の位置を使う太陽コンパス説で、こちらを支持する実験結果もあります。どちらか一方に決着したわけではなく、複数の手がかりを組み合わせているという見方が現在は有力です。

帰れるサケは、ごくわずか

仕組みが精密でも、実際に戻れる個体はほんの一部です。水産研究・教育機構の集計では、放流したサケのうち戻ってきた割合(単純回帰率)は全国で1996年の4.52パーセントから、2025年には0.66パーセントまで下がりました。

内訳は北海道が0.78パーセント、本州が0.04パーセントです(2026年4月時点の暫定値)。約30年でおよそ7分の1という落ち込みで、原因の解明が課題になっています。

においで川を選び分ける部分は、すでに解けています。残っているのは、海の上で向きを決める仕組みのほうです。

次にサケの遡上を見る機会があれば、その一匹が0.66パーセントの側にいることを思い出してみてください。

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