自然

雨のにおいはなぜする?正体は土の中の微生物

2026年7月 · 読了3分
雨のにおいはなぜする?正体は土の中の微生物

雨上がりの土っぽい香りの主役は、ジオスミンという物質です。土の中で暮らす放線菌という細菌が作り出しています。

人の鼻はこの物質にとても敏感で、ごくわずかな量でもはっきり感じ取れます。雨そのものににおいがあるわけではありません。

においを作っているのは細菌

ジオスミンを作るのは、ストレプトミセス属をはじめとする土の中の放線菌です。1965年、アメリカの研究者ナンシー・ガーバーとユベール・ルシュバリエが放線菌からこの物質を取り出し、ギリシャ語の「土」と「におい」を組み合わせてジオスミンと名づけました。

人の鼻の感度は極端で、1兆分の5から1兆分の400ほどという薄さでも気づきます。ビーツを食べたときの土っぽさも、同じ物質によるものです。

乾いた日が続くほど強く香る

においが強く出るのは、晴れが続いたあとの雨です。放線菌は胞子を作るときにジオスミンを盛んに放出し、その成分が土の粒や岩の細かい孔にたまっていきます。

1964年、オーストラリアの研究機関CSIROのイザベル・ジョイ・ベアとリチャード・トーマスは、乾いた岩を水蒸気で蒸留して黄色い油を取り出しました。植物が出す油が岩や土にしみ込み、水にふれたときに放たれる。この油もまた、雨のにおいの一部です。

雨粒が香りを打ち上げる

においが空気中へ届くしくみは、2015年にマサチューセッツ工科大学の研究チームが突き止めました。28種類の表面に落ちる雨粒を高速度カメラで600回以上撮影した実験です。

雨粒が細かい穴の多い地面に当たると、粒の内側に小さな気泡が閉じ込められます。気泡は水面まで浮き上がって弾け、シャンパンの泡のように細かい水滴を空へ飛ばします。この水滴がにおいを運んでいるのです。

同じ実験で、細かい水滴がいちばん多く出るのは弱い雨から中くらいの雨だと分かりました。激しい雨は雨粒の落ちる速さが大きすぎて、気泡ができる時間がありません。

土砂降りより小雨のほうが土のにおいを強く感じるのは、このためです。

細菌がにおいを出す理由

なぜ放線菌はわざわざにおいを出すのでしょうか。2020年に科学誌『ネイチャー・マイクロバイオロジー』へ発表された研究が、ひとつの答えを示しました。

ジオスミンの香りは、トビムシという小さな土の虫を引き寄せます。トビムシは放線菌のコロニーを食べ、体の表面やふんに胞子をつけたまま歩き回り、菌を新しい場所へ運びます。

ジオスミンを作る遺伝子はほぼすべてのストレプトミセス属が持っており、においは運び屋を呼ぶための合図だったわけです。

ペトリコールという名前

この香りには、1964年3月に科学誌『ネイチャー』でペトリコールという名前がつきました。ベアとトーマスによる造語で、ギリシャ語の「ペトラ(石)」と「イコル」を合わせた言葉です。

イコルとは、ギリシャ神話で神々の体を流れる液のこと。石から流れ出る神の血、というかなり詩的な名づけになっています。

次に雨のにおいを感じたら、それは足元の細菌が乾いた日々のあいだに用意していた香りです。小雨の日ほど強く香ることを覚えておくと、雨の降り方によるにおいの違いにも気づけるはずです。

← 記事一覧へ戻る