アリは体重の何倍を運べる?実測でわかった力の正体
「アリは体重の50倍を持ち上げる」とよく言われます。ところが実験室できちんと測ると、ハキリアリが運べた最大は体重の約8.8倍でした。
倍率は種によっても、何を測るかによっても大きく変わります。確かめられた研究だけを並べて、数字の中身を整理します。
実測すると体重の約8.8倍
2019年、実験生物学の専門誌 Journal of Experimental Biology に、ハキリアリ(Atta cephalotes)の運搬能力を測った研究が載りました。方法は単純です。
葉のかけらを運んでいるアリを見つけ、その葉に少しずつおもりを足していきます。運べなくなった時点が、そのアリの限界というわけです。
結果は平均で体重の8.78倍。数十倍という広く知られた数字とは、桁がひとつ違います。
しかも、この値は限界まで追い込んだ実験室の数字です。野外で実際に運んでいる葉は、それよりずっと軽いものでした。
「50倍」は裏づけの取れない数字
50倍という数字は、本や記事に繰り返し登場します。ただし、どの種をどのように測った値なのかをたどれる資料が見当たりません。
アリは種類が多く、体の作りも運び方も違います。頭上に持ち上げるのか、引きずるのか、ぶら下がって支えるのか。
何を測るかでも数字は変わります。広く語られていても、「アリは体重の50倍を運ぶ」と事実として断定はできません。俗説として扱うのが正確です。
大きなアリほど力を余らせている
同じ研究は、もうひとつ意外な事実を示しました。体の大きい個体も小さい個体も、体重に対して運べる割合はほぼ同じだったのです。
「小さいほど比率では力持ち」という直感は、少なくともこの種の中では当てはまりませんでした。
その一方で、野外で実際に運ばれていた葉を体重と比べると、大きなアリほど軽い荷物を選んでいました。限界の何割も手前で歩いている計算になります。
研究チームは、巣までの道にある障害物を越えるための余力ではないかと考えています。
首の関節は体重の数千倍に耐える
2014年、オハイオ州立大学の研究チームが、北米にすむアリ Formica exsectoides の首の関節の強さを測りました。頭を遠心機の床に固定し、回転させて体を外側へ引っぱる方法です。
体重の350倍あたりで関節が伸び始め、3400〜5000倍の力でようやく壊れました。事前の見積もりは1000倍程度で、結果はそれを大きく超えています。
ただしこれは関節が耐えられる力であって、アリが実際に運べる重さではありません。
落とさずに運べるのは足のおかげ
重い荷物を運ぶには、持ち上げる力だけでは足りません。地面や葉から足が離れないことが要ります。
2013年に英国王立協会の専門誌に発表された研究によると、昆虫の粘着する足の器官は、体重の100倍を超える付着力を出せます。ふつうに歩いているときは、その接着面のごく一部しか使っていません。
おもしろいのは反応の速さです。足がすべりかけると、1000分の1秒ほどのうちに接触面積を2倍以上に広げて踏みとどまります。
荷物を抱えたまま葉の裏を逆さに歩けるのは、この即応のしくみがあるからです。
アリの力を、ひとつの倍率で言い表すのは無理があります。確かなのは、きちんと測った運搬の限界が体重の9倍ほどで、関節や足はその何百倍もの力に耐える作りになっているということ。
次に行列を見つけたら、運んでいる荷物とアリの体をそっと見比べてみてください。
参考にした資料
- Journal of Experimental Biology — Large ants do not carry their fair share: maximal load-carrying performance of leaf-cutter ants
- The Ohio State University — With their amazing necks, ants don't need "high hopes" to do heavy lifting
- Proceedings of the Royal Society B — Rapid preflexes in smooth adhesive pads of insects prevent sudden detachment