バッタはなぜ体長の20倍も跳べるのか
草むらでバッタが跳ぶと、あっという間に見失います。サバクトビバッタの成虫は体長5センチほどで、一度に1メートル近く跳びます。
体長のおよそ20倍です。この力を生んでいるのは強い筋肉ではなく、後ろ足に組み込まれた「ばね」です。
跳ぶ距離は体長の約20倍
まず、どれくらい跳ぶのかを数字で見ておきます。サバクトビバッタの成虫は、走り幅跳びのように跳んで最大1メートルほど。
高さは25センチほどで、飛び出すときの速度は秒速3メートル前後です。踏み切りの瞬間の加速度は、重力の20倍近くに達します。
「体の何十倍も跳ぶ」と語られることもありますが、実測ではおよそ20倍。それでも身長170センチの人が34メートル跳ぶ計算で、十分に規格外です。
正体はカタパルト
バッタの跳躍はカタパルト(投石機)と同じ仕組みです。後ろ足を折りたたみ、足を伸ばす筋肉と曲げる筋肉を同時に縮めます。
曲げる側が関節を留め金のように押さえるので、足は伸びません。行き場を失った力は骨格にたまり、留め金が外れた瞬間に一気に解き放たれます。
踏み切りにかかる時間は0.025〜0.030秒です。
力をためる部品「半月突起」
力をためる部品は、後ろ足のふとももの先端にある三日月形の部分で、半月突起(semi-lunar process)と呼ばれます。2012年、ケンブリッジ大学のマルコム・バロウズらは、この半月突起が硬い外骨格とレジリンというゴムのようなタンパク質の複合材でできていることを示しました。
体重約1.6グラムのメスが跳ぶときのエネルギーは4.6ミリジュール。そのおよそ半分にあたる2.3ミリジュールが、左右の半月突起にためられていました。
力をためるあいだ、ふとももの先の幅は15%ほど広がるまでたわみます。
なぜ筋肉だけでは足りないのか
疑問が残ります。筋肉で直接蹴ればいいのに、なぜ回り道をするのでしょうか。
理由は、筋肉が1グラムあたりに出せるパワーに限りがあるからです。0.03秒で体を秒速3メートルまで加速するには、筋肉が直接出せる以上のパワーが要ります。
そこで時間をかけてゆっくり力をため、短い時間に圧縮して放出する。同じエネルギーでも放出時間が10分の1になれば、パワーは10倍になります。
このパワー増幅が、小さな体で大きく跳べる理由です。
寒さに強く、子どもは跳べない
ばね仕掛けには思わぬ利点があります。トノサマバッタを気温15度から35度まで変えて調べた研究では、跳躍の距離もエネルギーも温度でほとんど変わりませんでした。
筋肉の働きは冷えると鈍りますが、ためた力を返すのは物理的なばねなので、性能が落ちにくいのです。一方、体の小ささは正直に効きます。
ふ化直後の1齢幼虫(約10ミリグラム)はおよそ16センチ、5齢幼虫(約1グラム)でおよそ35センチ。1メートル近い跳躍は、成虫になって初めて届く距離です。
バッタの跳躍は、強い筋肉ではなく「ためて放つ」設計の勝利です。次に草むらでバッタを見つけたら、跳ぶ前の姿勢を見てください。
後ろ足をぐっと折りたたんで動きを止めていたら、それが力をためている合図です。
参考にした資料