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バッタはなぜ体長の20倍も跳べるのか

2026年7月公開 · 2026年9月更新 · 読了7分
バッタはなぜ体長の20倍も跳べるのか

バッタが体長の約20倍も跳べるのは、後ろ足に「ばね」を仕込み、筋肉の力をためてから一気に放っているからです。サバクトビバッタの成虫は体長5センチほどで、一度に1メートル近く跳びます。

筋肉で直接蹴っているのではありません。弓を引きしぼってから矢を放つのと同じ、カタパルト(投石機)の仕組みです。ここでは跳ぶ前の準備から、力をためる部品、筋肉だけでは届かない理由までを順に見ていきます。

跳ぶ距離は体長の約20倍

まず、どれくらい跳ぶのかを数字で見ておきます。英セント・アンドリューズ大学の解説によると、体長約5センチのサバクトビバッタは立ち幅跳びで最大1メートルほど跳びます。

高さは25センチほどで、飛び出すときの速度は秒速3メートル前後です。踏み切りの瞬間の加速度は、重力の20倍近くに達します。

「体の何十倍も跳ぶ」と語られることもありますが、実測ではおよそ20倍。それでも身長170センチの人が34メートル跳ぶ計算で、十分に規格外です。

日本の草むらでよく見るトノサマバッタも同じ仕組みで跳びます。後で紹介する温度や成長の研究は、このトノサマバッタを使ったものです。

跳ぶ前の3つの動き

バッタの跳躍は「たたむ・ためる・放つ」の3段階でできています。どの段階が欠けても、あの大ジャンプにはなりません。

1つ目は「たたむ」です。後ろ足のすねを、ふとももにぴったり沿うまで折りたたみます。

2つ目は「ためる」です。足を伸ばす筋肉(伸筋)と、足を曲げる筋肉(屈筋)を同時に縮めます。曲げる側が関節を押さえているので足は伸びず、伸ばす力だけが骨格にたまっていきます。この段階はゆっくりで、最長0.5秒ほどかかります。

3つ目は「放つ」です。曲げる筋肉がふっと力を抜くと留め金が外れ、たまった力が一気にすねを振り出します。ケンブリッジ大学の研究では、体を加速しきるまでの時間は0.02〜0.03秒でした。

準備に最長0.5秒、本番は0.03秒。ためる時間と放つ時間の差が、この仕組みの肝です。

小さな筋肉が大きな筋肉を押さえる

ここで不思議なことがあります。足を伸ばす筋肉は約14ニュートン(1.4キログラム分)の力を出します。足を曲げる筋肉は約0.7ニュートン(70グラム分)で、力の差は約20倍です。

弱いほうが強いほうを押さえ込めるのは、関節の形に秘密があるからです。ふとももの先の内側には小さなこぶがあり、足を完全にたたむと、曲げる筋肉の腱がこのこぶに引っかかります。

この姿勢では、曲げる筋肉はすねをまっすぐ引ける位置にあります。反対に伸ばす筋肉は、斜めからしか引けない位置に回り込みます。てこの条件が逆転するので、20分の1の力でも留め金の役を果たせるのです。

逆に言えば、足をたたみ切らないとこの留め金はかかりません。その場合は力をためられず、弱い「ぴょこん」で終わります。

力をためる部品「半月突起」

力をためる部品は、後ろ足のふとももの先端にある三日月形の部分で、半月突起(semi-lunar process)と呼ばれます。長さ約2.4ミリ、幅約0.7ミリの小さな板です。

2012年、ケンブリッジ大学のマルコム・バロウズらは、この半月突起が硬い外骨格とレジリンというゴムのようなタンパク質の複合材でできていることを示しました。

体重約1.6グラムのメスが跳ぶときのエネルギーは4.6ミリジュール。そのおよそ半分にあたる2.3ミリジュールが、左右の半月突起にためられていました。残りの半分は、ふとももの外骨格全体のたわみと、内部の腱に分散してたまります。

力をためるあいだ、ふとももの先の幅は15%ほど広がるまでたわみます。半月突起の外骨格はガラスのように均質で硬く、わずかに曲がるだけで大きなエネルギーをためられます。ふつうの外骨格はしなやかすぎて、ばねには向きません。

なぜ筋肉だけでは足りないのか

筋肉で直接蹴ればいいのに、なぜ回り道をするのでしょうか。理由は、筋肉が力を出し切るまでに時間がかかるからです。

バッタの伸筋が最大の力に達するまでには約0.3秒かかります。一方、跳ぶときに足が伸び切るのは約0.03秒。足が伸び終わるころ、筋肉はまだ力を出し始めたばかりという計算です。

さらに筋肉には、速く縮むほど出せる力が落ちるという性質があります。素早く、しかも強く蹴るという注文には、筋肉だけでは応えられません。

そこで時間をかけて力をため、短い時間に圧縮して放出します。トノサマバッタの研究では、跳躍のパワーは筋肉が出すパワーの約10倍に増幅されていました。同じエネルギーでも放出時間が10分の1になれば、パワーは10倍になります。

寒さに強く、子どもは跳べない

ばね仕掛けには思わぬ利点があります。トノサマバッタを気温15度から35度まで変えて調べた研究では、跳躍の距離もエネルギーも温度でほとんど変わりませんでした。

筋肉の働きは冷えると鈍りますが、ためた力を返すのは物理的なばねなので、性能が落ちにくいのです。ためる作業がゆっくりでも、放つ速さは変わりません。

一方、体の小ささは正直に効きます。ふ化直後の1齢幼虫(約10ミリグラム)はおよそ16センチ、5齢幼虫(約1グラム)でおよそ35センチ。

成虫になると跳躍は一段伸び、幼虫の成長の延長線から予想されるより87%遠くまで跳びます。成虫の後ろ足は幼虫より相対的に12%長く、ふとももの筋肉の断面積も11%大きくなっていました。成虫になるときに、跳ぶための体へ作り替えられているわけです。

ほかの「ばね仕掛け」の跳び手

力をためて放つ仕組みは、バッタだけのものではありません。跳ぶのが得意な昆虫の多くが、同じようにばねを使っています。

ばね仕掛けで跳ぶ昆虫の比較(University of St Andrews、Journal of Experimental Biology ほか)
生き物体長跳躍踏み切りの加速度
サバクトビバッタ約5センチ前へ最大約1メートル(体長の約20倍)重力の約20倍
アワフキムシ約6ミリ高さ最大約70センチ(体長の100倍超)重力の500倍超
ノミ数ミリ10センチ超(種による)重力の約320倍超

体長との比で見ると、バッタより上がいます。アワフキムシは体長の100倍を超える高さまで跳びます。ノミは約0.001秒で踏み切り、ばねにはバッタの半月突起にも含まれるレジリンを使っています。

体が小さいほど足は短く、踏み切りに使える時間も短くなります。ノミの0.001秒はバッタの20分の1以下で、筋肉が力を出し切るのを待つ余裕はまったくありません。小さな跳び手ほど、ばねなしでは跳べない体をしているのです。

よくある疑問

バッタは何メートル跳べますか?
体長約5センチのサバクトビバッタの成虫で、前へ最大1メートルほどです。高さは25センチほどになります。幼虫は小さいほど距離が短く、ふ化直後は16センチほどです。
人間に置き換えるとどれくらいですか?
体長の約20倍なので、身長170センチの人なら約34メートルです。ただし体の大きさが変われば筋肉や骨にかかる条件も変わるため、あくまで比率の話として楽しむ数字です。
バッタの後ろ足が太いのはなぜですか?
太いふとももの中に、足を伸ばす大きな筋肉が詰まっているからです。その先端には力をためる半月突起があり、ふともも全体がカタパルトの本体になっています。すねは速く振り出せるよう、細く軽く作られています。

まとめ

バッタが体長の約20倍を跳べるのは、筋肉の力をゆっくりためて0.03秒ほどで放つカタパルトを後ろ足に持っているからです。力をためるのは半月突起という硬いばねで、跳躍のエネルギーの約半分を受け持ちます。

この仕組みのおかげで、パワーは筋肉だけの約10倍になり、寒い日でも跳躍の性能が落ちにくくなっています。次に草むらでバッタを見つけたら、跳ぶ前の姿勢を観察してください。後ろ足をぴったり折りたたんで動きを止めていたら、それが力をためている合図です。

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