雑学

家具の転倒防止は、なぜ「下」が効くのか

2026年7月公開 · 2026年10月更新 · 読了7分
家具の転倒防止は、なぜ「下」が効くのか

※この記事にはアフィリエイト広告(PR)を含みます。リンク先の楽天市場で購入されると、紹介料が入ることがあります。

家具の転倒対策で「下」が大事なのは、重い物を下の段に入れると家具全体の重心が下がり、倒れにくくなるからです。ただし、下に差し込む器具だけで足りるわけではありません。東京消防庁の実験では、ストッパー式や粘着マット式を単独で使った場合の効果は小さいとされています。天井との間に立てるポール式と組み合わせて初めて、ネジ留めのL型金具に並びます。

この記事では、けが人の割合や階数ごとの被害といった数字から、消防機関が示す「上と下」の組み合わせを整理します。

けが人の3〜5割は、家具が原因だった

東京消防庁の「家具転対策ハンドブック」によると、近年の地震でけがをした原因を調べると、約30〜50%の人が家具類の転倒・落下・移動によるものでした。調べた地震には、2003年の宮城県北部地震や2004年の新潟県中越地震、2016年の熊本地震などが含まれます。

ハンドブックは、家具が倒れたときの危険を3つに分けています。

平成27年には東京都火災予防審議会が、家具類の転倒防止対策は地震時の出火防止にも有効で、火災による死者の減少に大きく寄与すると答申しました。2018年9月の北海道胆振東部地震では大規模な停電が起き、暗い室内を移動して転倒した負傷者も出ています。

家具の倒れ方にも型があります。総務省消防庁の解説では、洋ダンスや冷蔵庫のような背の高い家具は、前後に揺れながら歩くように動く「ロッキング移動」を起こします。食器棚の上に重ねた部分やテレビは跳ねて落ち、床を滑って動く家具もあります。

高い階ほど、家具はよく動く

東日本大震災のあと、東京消防庁は都内でアンケート調査を行いました。家具類が倒れた・落ちた・動いたと答えた割合を、住んでいる階ごとに並べたのが次の表です。

都内の階層別の家具類の転倒・落下・移動の発生割合(東京消防庁「家具転対策ハンドブック」、平成23年調べ)
住んでいる階回答数発生割合
1階または2階21416.8%
3〜5階20223.8%
6〜10階20431.9%
11階以上3647.2%

1〜2階と11階以上では、約2.8倍の差があります。11階以上は回答数が36と少ないものの、階が上がるにつれて割合が増える傾向ははっきりしています。ハンドブックは、その一因を長周期地震動と考えています。ゆっくり大きく揺れる地震動で、高い建物の上の階ほど揺れが大きくなりやすいものです。

ここでいう「移動」は、家具が倒れずにおよそ60センチ動いた場合を指します。東京消防庁は、おおむね10階以上に住む人には、倒れる・落ちるの対策に加えて動くのを防ぐ対策も求めています。キャスター付きの家具は、特に動きやすいとされています。

上だけで押さえるには、全重量の2分の1以上の力

揺れる家具をその場にとどめるには、大きな力が要ります。総務省消防庁の解説によると、家具の上部で支える場合、家具の全重量の2分の1以上の力が必要です。重さ60キロの本棚なら、30キロ以上の力で押さえ続ける計算になります。

そこで効いてくるのが、器具を使わない「下」の工夫です。総務省消防庁は、重い物ほど下に入れることを、家具を倒れにくくする大原則と位置づけています。

重心が下がると、家具全体が倒れにくくなります。高い位置から重い物が落ちてくる危険も減ります。東京消防庁のハンドブックも、棚に物を収納するときは重い物を下にし、重心を低くするよう案内しています。

器具の効きめを、震度6強の実験で比べる

東京消防庁は、震度6強の揺れを再現した実験で、転倒防止器具の効果を測りました。ハンドブックとホームページの説明をまとめると、次のようになります。

家具の転倒防止器具の効果(東京消防庁「家具転対策ハンドブック」「自宅の家具転対策」をもとに作成)
器具取り付ける場所東京消防庁の評価
L型金具などでネジ留め家具の上部と壁の桟最も効果が高い
ポール式+ストッパー式(またはマット式)家具の上と下L型金具と同等の効果
ストッパー式・マット式だけ家具の下効果が小さく、大きな家具には一般に適さない

ストッパー式は家具の下に挟み込み、家具を壁側へ少し傾けて倒れにくくする器具です。ハンドブックは、家具の端から端まで敷くよう書いています。粘着マット式は、ゲル状の粘着材で家具の底と床をくっつけます。粘着力は時間とともに落ちるため、有効期限の確認が必要です。

ポール式は、家具の上と天井のすき間に立てる突っ張り棒です。家具の両端の、壁側の奥に取り付けます。天井には下から突き上げる力に耐える強さが要り、足りなければ家具の幅以上の板を当てて補強するよう書かれています。奥行きのない家具や、天井とのすき間が大きい場合には向きません。

L型金具は家具の上部に付けますが、壁の中の桟(下地の木材)に木ネジが届かないと効きません。総務省消防庁によると、桟は30センチか45センチの間隔で入っていることが多いものです。ドライバーの柄で2センチずつずらしながら叩くと、音の違いで探せます。

家電にも注意点があります。東京消防庁によると、テレビは重心が高く、テレビ台ごと倒れることがあります。そのため、テレビ本体だけでなくテレビ台も壁や床に固定するよう案内しています。

家の中のどこに何を置くか、寝る場所と家具の位置関係まで含めて考えるなら、間取りの図やイラストで追うほうが分かりやすい話です。家にとどまって避難する「おうち避難」の備えをマンガでまとめた図鑑もあります。

よくある疑問

賃貸で壁に穴を開けられない場合の方法は?
東京消防庁は、賃貸住宅や家具に傷をつけたくない場合について、穴を開けずに済む器具を2つ以上組み合わせる方法を挙げています。例はポール式とストッパー式(またはマット式)の組み合わせで、L型金具と同等の効果を発揮するとしています。集合住宅では、隣との境の壁や外に面した壁が共用部分にあたることが多く、総務省消防庁は管理事務所や管理組合に確かめる必要があると書いています。
コンクリートの壁なら、どこでもネジで留められますか?
留められない壁があります。総務省消防庁によると、最近の集合住宅に使われるS1壁やGL壁といった防露壁には桟が入っていません。コンクリートに発泡スチロール系の断熱材を貼った造りのため、家具を固定すると、揺れたときに家具の重さで壁の表面がはがれる危険があります。S1壁は叩いた音がコンクリート壁と似ていて間違えやすいので、判別が難しい場合は工務店などの専門家に相談するよう勧めています。

まとめ

近年の地震では、けが人の約30〜50%が家具類の転倒・落下・移動によるものでした。11階以上では、家具が倒れた・動いたという回答が47.2%にのぼります。上部だけで家具を押さえるには全重量の2分の1以上の力が要り、だからこそ重い物を下の段に入れて重心を下げる工夫が効いてきます。

器具では壁の桟へのネジ留めが最も効果が高く、ネジが使えないならポール式と下の器具の組み合わせ。これが東京消防庁の整理です。下の器具は、単独では効果が小さい「片割れ」と覚えておくと、組み合わせの意味が分かりやすくなります。本棚の一番上に置いた重い物を下の段へ移すことは、器具を買わなくても今日からできる対策です。

← 記事一覧へ戻る