雑学

チーズを追いかけて丘を転がる?イギリスの奇祭

2026年7月 · 読了3分
チーズを追いかけて丘を転がる?イギリスの奇祭

イギリス西部グロスターシャー州のクーパーズ・ヒルで、毎年5月末に開かれるのが「チーズ転がし祭り」です。約3.6キロの丸いチーズが急斜面を転がり落ち、その後を大勢の人が追いかけます。

ただし、このチーズが追いつかれることはまずありません。勝者は「チーズを捕まえた人」ではなく、「最初にふもとへ着いた人」です。

舞台は勾配1対2の斜面

会場はブロックワースという村にあるクーパーズ・ヒルです。コースの長さは約180メートル。

傾きは2メートル進むあいだに1メートル下がる「1対2」で、場所によってはさらに急になります。地面はでこぼこの草地で、立ったまま下りきるのはほぼ不可能です。

転がすのはダブル・グロスターという固いチーズで、重さは約3.6キロ(8ポンド)。円盤形の側面を木の枠で保護し、スタート前にリボンで飾ります。

このチーズは1988年から、地元のチーズ職人が作り続けています。

チーズに追いつけない理由

理由は単純で、チーズが1秒早くスタートするからです。この1秒と急な傾きだけで、人の足では届かない差がついてしまいます。

ルールの上では「チーズをつかむか、最初にゴール線を越えた人が勝ち」と決まっていますが、実際に捕まえられた例はほとんどありません。賞品は、転がしたチーズそのものです。

なお「チーズは時速70マイル(約110キロ)に達する」とよく紹介されますが、これは計測にもとづく公式の記録ではありません。

いつ始まったかは分かっていない

確かな記録は1836年までさかのぼります。ギネス世界記録はこの祭りを「最も長く続くチーズ転がしレース」として認定しており、その根拠は1883年の地元紙の記事です。

町の触れ役に「クーパーズ・ヒルのウェイク(祭り)」を触れ回るよう頼んだ、1836年の依頼文が引用されています。一方で「600年以上前から続く」「異教の豊穣の儀式が起源」といった説も語られますが、裏づけとなる史料は見つかっていません。これらは俗説として扱うのが正確です。

中止の年もチーズだけは転がる

この祭りには、共有地で家畜を放牧する権利を守るという役割があったと伝えられています。そのため、レースが中止になった年でも、チーズだけは形式的に斜面を転がされてきました。

2009年までは主催者のいる公式行事でしたが、観客の安全を確保できないという理由で取りやめになります。以降は主催者を置かないまま、有志の手で毎年続いています。

2012年には救急ボランティア団体も現場から撤退し、参加は自己責任になりました。2023年には6人が救急車で病院へ運ばれています。

レースは1本ではない

当日は複数のレースが行われます。男子の下り、伝統的に3本目に置かれる女子の下り、そして子どもと大人が斜面を駆け上がる「上り」のレースです。

上りは下りより安全なので、子どもも参加できます。下りで23回優勝したクリス・アンダーソンは、2022年に引退しました。

2024年と2025年は、ドイツ出身のトム・コプケが連覇しています。優勝者はオーストラリア、カナダ、日本、ニュージーランドなど、各国から出ています。

見に行くなら、丘を下るより、ふもとで待つほうが安全です。転がるチーズも転げ落ちてくる人も止まれないので、立つ位置は現場の指示に従ってください。

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