災害の備えで抜けやすい「トイレ」 携帯トイレは何回分いる?
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携帯トイレの備えは、1人1日5回が目安です。内閣府の「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」がこの回数を示し、経済産業省は1週間分、つまり1人35回分の備蓄を勧めています。4人家族なら140回分です。
この「5回」という数字は、阪神・淡路大震災から東日本大震災まで、災害のたびにトイレで困った経験を積み重ねて定まってきました。この記事では、その経緯を年を追ってたどり、家庭の備えにつなげます。
1995年、トイレは「後回し」になった
内閣府のガイドラインは、過去の災害でのトイレの状況をまとめています。出発点の1つが、1995年1月17日の阪神・淡路大震災です。
当時の神戸市は、下水道に接続している割合が約97%と高く、くみ取りに使うバキューム車は20台程度しかありませんでした。水洗トイレが止まると、たまった汚物を運び出す手段がほとんど残っていなかったわけです。道路の寸断や渋滞で、ほかの都市から届いた災害用トイレの設置にも手間取りました。
直後の市町村の対応では、水・食料・毛布・医薬品の確保が優先されました。避難所に災害用トイレが設置されたのは早いところでも3日目以降で、11日目という例もありました。
どれだけあれば足りるのか、という数字も残っています。1997年に日本消防設備安全センターが出した資料によると、仮設トイレの数は次のとおりでした。
- 北海道南西沖地震(1993年):約20人に1基で、混乱なし
- 阪神・淡路大震災:約75人に1基が配備された段階で、苦情がほぼ無くなった
- 雲仙普賢岳噴火災害:約120〜140人に1基で、不足気味
新潟の2つの地震と、東日本大震災
2004年10月23日の新潟県中越地震では、災害用トイレが100人に1基の割合では足りないという苦情が多く出ました。トイレが不安で水を飲むのを控えたという人は、小千谷市で33.3%、川口町で13.8%にのぼりました。
3年後の2007年7月16日、新潟県中越沖地震が起きます。ガイドラインは、このときの素早い対応を記録しています。発災直後に職員が駆けつけて水洗トイレの使用を禁止し、備蓄していた簡易トイレや携帯トイレ、消毒液とウェットティッシュを使うよう指示しました。ガイドラインはこれを効果的だったと評価しています。
2011年3月11日の東日本大震災では、仮設トイレそのものが届きませんでした。名古屋大学の岡山朋子氏らが、岩手・宮城・福島の29自治体に尋ねた調査があります。仮設トイレが避難所に行き渡るまでの日数は、3日以内が34%にとどまりました。最も時間がかかった自治体は65日です。
ガイドラインによると、発災から数日でトイレが排泄物の山になった避難所も少なくありませんでした。暗い、和式である、段差がある。こうした理由で、高齢者や障害者、女性や子どもには使いにくいトイレもありました。東京都は、東日本大震災では発災から3時間以内に3割の人がトイレに行きたくなった、という日本トイレ研究所の調べも紹介しています。
2016年、国がガイドラインを作った
こうした経験を受けて、内閣府は2016年(平成28年)4月に「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」を作りました。2022年4月と2024年12月に改定されています。
ガイドラインは、国際的な人道支援の基準であるスフィア基準に沿って、市町村が次の数字で備蓄や確保の計画を作るよう求めています。
- 災害発生当初は、避難者50人あたり1基
- 避難が長引く場合は、20人あたり1基
- 女性用と男性用の比率は3対1
- トイレの平均的な使用回数は、1日5回
同じガイドラインには、下水道の被害の数字も載っています。国土交通省の調べでは、下水道管路の被害は東日本大震災で約1.5%、2016年の熊本地震で約2.7%でした。地震に強い管路の整備が進んできたことが背景にあります。それでも、被害を受けた場所がどこかは、流してみるまで分かりません。
家のトイレを流す前に確かめること
「1日5回」は、家庭の備えにもそのまま使えます。内閣府の広報誌「ぼうさい」は、経済産業省が1週間分(1人35回分)の備蓄を推奨していると紹介しています。同じ記事によると、災害用トイレの備蓄率は約20%にとどまっています。東京都の「東京トイレ防災マスタープラン」では、首都直下地震の発生後1週間以内に、最大約5万7000基のトイレが不足すると想定されています。
お風呂の水をバケツで流せばよい、という話もあります。東京都下水道局によると、配管が壊れていると汚水が詰まって逆流したり、壊れた所から噴き出したりします。集合住宅では、下の階の部屋へ汚水が逆流する場合があります。横浜市は、確かめる手順を次のように示しています。
- 集合住宅では、管理組合などが決めた災害時のトイレ使用ルールを確認する
- 建物の中に目に見える被害がないか、敷地の周りのマンホールに異常がないかを見る
- 下の階の住戸から順に水を流し、下水が使えるかを確かめる
- 一戸建てでは、敷地内の汚水ますのふたを開けてトイレの水を流し、溜まった水が引くかどうかを2人以上で確かめる
家の排水管が外れていたり、周りの道路のマンホールから水が溢れていたりする場合は、トイレを使わず携帯トイレを使うよう横浜市は呼びかけています。携帯トイレは、便器にポリ袋をかぶせた上に使う袋を重ね、用を足したら凝固剤を入れて口を縛る仕組みです。使い終えた袋は、自治体がごみの出し方を決めるまで家で保管することになります。
備えに使える道具
携帯トイレと、使い終えた袋を保管するための袋を1点ずつ選びました。価格は2026年10月時点の楽天市場の表示です。
携帯トイレ:防災LAB 非常用トイレセット(日本製) 約3,980円から。凝固剤・排泄袋・処理袋・便器カバーのセットで、2回分ずつ小分けのパックになっています。30回分・50回分・100回分から選ぶ形式で、価格は回数によって変わります。商品ページの表示では、凝固剤は15年保存です。
向いている人:家族の人数に合わせて回数を選びたい人。注意:4人家族の1週間分(140回分)をそろえるには、100回分でも足りません。
防臭袋:クリロン化成 臭わない袋BOS Lサイズ 90枚 約1,840円。おむつや生ごみなど臭いの強い物を入れて結ぶ、日本製の袋です。Lサイズは30×40センチのマチ付きです。
向いている人:使用後の袋を、回収が始まるまで家に置いておく場面に備えたい人。注意:携帯トイレの袋を丸ごと入れられるかは、袋の大きさで確かめます。
年表で振り返るトイレの教訓
| 年 | 出来事 |
|---|---|
| 1993年 | 北海道南西沖地震。仮設トイレ約20人に1基で混乱なし |
| 1995年 | 阪神・淡路大震災。設置は早くて3日目以降、約75人に1基で苦情がほぼ解消 |
| 2004年 | 新潟県中越地震。100人に1基では不足。小千谷市で33.3%が水を控えた |
| 2007年 | 新潟県中越沖地震。発災直後に水洗トイレを使用禁止にし、携帯トイレなどで対応 |
| 2011年 | 東日本大震災。仮設トイレが3日以内に届いた自治体は34%、最長65日 |
| 2016年 | 内閣府がトイレのガイドラインを作成。同年、熊本地震 |
| 2022年・2024年 | ガイドラインを改定(4月・12月) |
阪神・淡路大震災では、トイレは水や食料の後回しにされました。そこから約20年をかけて、「1人1日5回」「50人に1基」といった数字が国の指針に書き込まれています。家庭で考えるなら、家族の人数に5をかけ、さらに日数をかけた数が出発点になります。
参考にした資料