ざわめきの中で自分の名前だけ聞こえるのはなぜ?カクテルパーティー効果
ざわめきの中で自分の名前に気づくのは、耳が良いからではありません。耳はまわりの音をほとんどすべて拾っていて、その中から必要な声だけを選び出しているのは脳のほうです。
この働きはカクテルパーティー効果と呼ばれ、1953年から研究が続いています。
にぎやかな居酒屋や教室で、隣の席の会話はまるで頭に入らないのに、自分の名前が出た瞬間だけはっと振り向く。そんな経験はないでしょうか。偶然ではなく、脳が音を仕分けている証拠です。
耳は全部拾い、脳が選び出す
鼓膜は届いた音を選り好みしません。話し声も食器の音もまとめて振動として受け取り、そのまま脳へ送ります。
仕分けをしているのは、その先の脳です。2012年に科学誌ネイチャーで発表されたメスガラニとチャンの研究では、二人の話し手の声を同時に聞かせながら、聴覚をつかさどる脳の活動を直接記録しました。
すると、注意を向けたほうの声の特徴だけがはっきりと現れていました。もう一方の声は、まるでそこに無いかのようだったのです。
1953年、二つの声を聞き分けた実験
この現象を最初に調べたのは、イギリスの研究者コリン・チェリーです。1953年、彼は左右の耳に別々の話を同時に流し、片方だけを声に出して復唱してもらいました。
無視したほうの耳について参加者が答えられたのは、話し手が男性か女性か、人の声か機械の音か、という程度です。何語だったのか、どんな内容だったのかは、まったく答えられませんでした。
二つの耳が方向を教えている
声を選び分けられるのは、耳が二つあるおかげでもあります。音が左右の耳に届く時間と大きさはわずかに違い、脳はその差から音の来た方向を割り出します。
両耳で聞くと、雑音に対する声の聞き取りやすさは最大で4デシベル分よくなります。二人の話し手がたった10度離れて座っているだけで、聞き分けの成績はほぼ最大になるという報告もあります。
声の高さの違いも効きます。同性どうしの声が重なると、男女の組み合わせにくらべて成績は20ポイントほど落ちます。
名前に気づくのは3人に1人
「自分の名前は必ず聞こえる」というのは言い過ぎです。1959年のモレイの実験で、無視していた側の耳に流れた自分の名前に気づいた人は33パーセントでした。
1995年の追試では35パーセント、2020年に手順をあらかじめ登録して行われた再現実験でも29パーセント。三度とも3割前後で一致しています。
同じ2020年の実験では、文にまぎれこませた予想外の単語に気づいた人はたった1人でした。名前だけが特別で、興味のある言葉なら何でも耳に飛び込んでくるわけではありません。
うまく働かない場面もある
この仕組みは万能ではありません。聞こえに障害があると、雑音の中での聞き取りは最大で10デシベル分ほど不利になります。
音がよく反響する部屋でも、同じくらい不利になります。だからこそ、補聴器やイヤホンにとってこの場面は今も難題です。
先ほどのメスガラニらの研究では、脳の活動の記録から「今どちらの声を聞こうとしているか」を機械で言い当てられました。この結果をもとに、聞き取りを助ける機器の研究が続いています。
騒がしい店で話が聞き取りにくいと感じたら、席の向きを少し変えてみてください。話し相手と雑音の方向が離れるほど、脳は声を選び分けやすくなります。
わずか10度の差でも効くというのが、実験からわかっていることです。
参考にした資料
- PubMed Central(米国国立衛生研究所) — The cocktail-party problem revisited: early processing and selection of multi-talker speech
- PubMed Central(米国国立衛生研究所) — A Preregistered Replication and Extension of the Cocktail Party Phenomenon: One's Name Captures Attention, Unexpected Words Do Not
- Nature — Selective cortical representation of attended speaker in multi-talker speech perception