効かない薬でも効いてしまう?プラシーボ効果のふしぎ
成分の入っていない薬でも、「効く」と信じて飲むと症状が軽くなることがあります。これがプラシーボ効果です。
ただし何にでも効くわけではなく、効く範囲ははっきりしています。近年は「偽薬だと知らせても効いた」という臨床試験の報告も出ています。
砂糖やでんぷんだけで作った偽薬を飲んでもらうと、痛みや不眠がやわらぐ人が現れます。プラシーボはラテン語のplacere(喜ばせる)から来た言葉で、「私は喜ばせる」という意味です。
中身は薬ではないのに、症状の感じ方は確かに変わります。
期待と経験が脳を動かす
プラシーボ効果を生むしくみは、大きく2つに整理されています。1つは期待です。
「これで良くなる」という思いが、体の反応そのものを変えます。もう1つは条件づけで、薬を飲んで楽になった経験が重なると、同じ場面で体が先に反応するようになります。
米国立衛生研究所(NIH)のサイトで公開されている医学解説書スタットパールズによれば、ドーパミンやオピオイドなど、脳内の複数の伝達物質がここに関わっています。
効くものと効かないもの
プラシーボ効果は万能ではありません。ハーバード大学医学部の解説によると、偽薬でコレステロール値が下がったり、腫瘍が小さくなったりすることはありません。
効くのは、脳が調整している症状に限られます。痛み、ストレスによる不眠、がん治療の副作用である強い疲れや吐き気などです。
しかも薬そのものだけでなく、診察を受ける、白衣の人から錠剤を手渡されるといった治療の「儀式」が、症状の感じ方に大きく影響します。
偽薬だと知らせても効いた
「だまさないと効かない」と長く考えられてきましたが、2021年に医学誌ペインで報告された臨床試験がその前提を崩しました。ハーバード大学系列のベス・イスラエル・ディーコネス医療センターなどが、過敏性腸症候群の患者262人を対象に実施したものです。
偽薬だと正直に伝えて渡したグループは、何も飲まないグループより症状が改善しました。しかも、本物の薬と偽って渡す従来型のグループとの差はありませんでした。
新薬の試験で偽薬と比べる理由
プラシーボ効果があるため、薬の良し悪しは「飲んだら治ったか」だけでは判定できません。1955年にヘンリー・ビーチャーが発表した論文「強力なプラシーボ」をきっかけに、偽薬と比べる試験が医学の標準になりました。
偽薬よりはっきり良い結果が出て、はじめて「薬が効いた」と認められます。ただし、すでに有効な治療がある病気では、偽薬ではなく現在いちばん良い治療と比べるのが原則です。
逆向きに働く「ノセボ効果」
期待は悪いほうにも働きます。「副作用が出るかもしれない」と不安なまま飲むと、成分とは関係なく頭痛や吐き気が出ることがあります。
これはノセボ効果と呼ばれ、名前はラテン語のnocere(害する)から来ています。臨床試験では、参加者が治療を途中でやめてしまう原因にもなります。
薬の効き目には、成分だけでなく「どう受け取るか」が上乗せされています。薬をもらったら、効き目と副作用の説明を聞いて納得してから飲む。それも治療の一部です。
参考にした資料