クレジットカード誕生秘話「財布を忘れた食事」は作り話だった
クレジットカードの誕生秘話として、「実業家が食事の席で財布を忘れ、恥をかいたことから思いついた」という話が知られています。これは俗説です。
話を作ったのは、カード会社の広報担当者本人でした。本当の始まりは、1950年2月8日のニューヨークにあります。
語り継がれてきた「最初の晩餐」
よく語られるのは、こんな話です。1949年、ニューヨークのレストラン「メジャーズ・キャビン・グリル」で、実業家フランク・マクナマラが客と食事をしていました。
支払いのときになって、別のスーツに財布を入れたまま来たことに気づきます。妻が現金を持って駆けつけて事なきを得たものの、彼はこの経験から「現金なしで払える仕組み」を思いついた。
英語圏では、この逸話を「最初の晩餐」と呼んでいます。
作ったのは広報担当者だった
この話を否定したのは、ダイナースクラブの広報担当だったマティ・シモンズです。シモンズは後年、あの出来事は起きておらず、話は自分が作ったものだと認めました。
理由は「商品を売り込むために、クレジットカードの誕生を華やかに見せる必要があった」からでした。カードの構想そのものはマクナマラのものでしたが、一度の失敗から生まれたひらめきではありません。
シモンズは当初、この構想は実現しないと考えていたと振り返っています。
本当の始まりは1950年2月8日
ダイナースクラブが設立されたのは1950年2月8日です。マクナマラ、弁護士のラルフ・シュナイダー、広報のマティ・シモンズ、実業家のアルフレッド・ブルーミングデールの4人が、150万ドルの資本で立ち上げました。
始まりは小さく、加盟店はわずか27軒。使ったのは創業者たちの友人・知人200人だけでした。
最初のカードはプラスチックではなく厚紙製で、プラスチックになったのは1961年からです。
27軒から始まったカードは、その年の暮れには会員2万人まで増えました。会員が払う年会費は5ドル、加盟店が払う手数料は売上の7%。
この2本立ての収入で回す仕組みは、今のカード会社とほとんど同じです。
ダイナースは「クレジットカード」ではない
厳密にいうと、ダイナースクラブが生んだのはチャージカードです。チャージカードは、使った分を翌月に全額まとめて払う仕組みで、分割払いはできません。
残額を翌月へ繰り越し、利息を払いながら使い続ける「リボルビング」型が現れるのは1958年です。バンク・オブ・アメリカがカリフォルニア州フレズノで、市民6万人に一斉にカードを郵送しました。
このバンカメリカードが、いま私たちが持つクレジットカードの直接の先祖にあたります。
なぜ作り話のほうが残ったのか
事実より覚えやすいからです。「財布を忘れて恥をかいた」は一文で伝わり、聞いた人が自分の失敗に重ねられます。
一方「1950年に加盟店27軒と会員200人で始まった」は正確ですが、話としては弾みません。作った本人が否定した後も、この逸話はダイナースクラブの公式サイトに載り続けています。
この話を誰かに披露するときは、「作り話だそうですよ」と一言添えてみてください。誰がなぜ作ったのかまで話せると、元の逸話より面白い話になります。
参考にした資料