給料「サラリー」の語源は塩だった?
給料を意味する英語のサラリー(salary)は、塩を語源に持ちます。ラテン語のサラリウム(salarium)から来た言葉で、そのサラリウムは塩を表すサル(sal)から生まれました。
ただし「古代ローマの兵士は塩で給料を受け取っていた」という有名な話のほうは、古代の記録には見当たりません。語源は事実、塩での支払いは俗説です。
塩を表すラテン語から生まれた言葉
オンライン語源辞典エティモンライン(Etymonline)によると、英語のsalaryが使われ始めたのは13世紀の終わりごろです。古フランス語のsalaire、アングロ・フランス語のsalarieを経て英語に入りました。
さらにさかのぼるとラテン語のsalariumにたどり着きます。salariumは「手当」「俸給」を意味し、塩を表すsalから派生した語です。
ここまでは主要な辞書が一致して認めている事実です。決まった額を定期的に受け取る報酬という今の意味に絞られたのは、19世紀に入ってからでした。
「塩で払われた」は裏づけのない話
よく語られるのは「当時の塩は貴重品だったので、兵士は塩そのものを給料として受け取った」という説明です。これは俗説です。
塩で支払われたとする説にも、塩の輸送路を守った見返りだとする説にも、古代の裏づけはありません。ローマ兵の給与は貨幣で支払われ、ステイペンディウム(stipendium)と呼ばれていました。
塩そのものが給料として渡されたと記す古代の史料は、今のところ見つかっていないのです。
サラリウムは生活を支える支給全体を指した
では、サラリウムは実際に何を指したのでしょうか。19世紀の古典事典『ギリシア・ローマ古代事典』のsalarium項は、ローマの役人に支給された生活物資一式と、貨幣による俸給の両方を含む語だと説明しています。
受け取ったのは属州の総督や軍の高官たちです。皇帝アントニヌス・ピウスは帝国全土の弁論家と哲学者に、アレクサンデル・セウェルスは文法学者や医師、建築家にまで俸給を定めました。
塩そのものではなく、暮らしを成り立たせるための支給全体を指す言葉だったわけです。
ローマにとって塩が大切だったのは本当
塩が軽く扱われていたわけではありません。ローマには「サラリア街道(Via Salaria、塩の道)」と呼ばれる街道がありました。
名前の由来は、やはりラテン語の塩です。サビニ人がテヴェレ川の河口にある塩の産地まで塩を取りに行くのに使った道だと伝えられています。
冷蔵庫のない時代、肉や魚を長く保つ方法は塩漬けがほぼ唯一でした。軍隊の食料を保存するにも欠かせません。
ただし、塩が大切だったことと、塩で給料が払われたことは別の話です。
語源の空白は物語で埋められやすい
salariumがなぜ「手当」を意味するようになったのか、その事情を書き残した古代の人はいません。分かっているのは語の形だけで、途中の経緯は空白のままです。
人はこうした空白を、もっともらしい物語で埋めたくなります。塩の給料の話はその典型例です。
語源の話に出会ったら、辞書で確かめられる部分と、後から足された説明とを分けて聞くと間違いが減ります。
サラリーの語源が塩であることは事実、塩で給料が払われたという話は俗説。次に給料日の話題になったら、この二つを分けて話してみてください。
参考にした資料