ヒトデは腕1本から体を作り直せるって本当?
本当です。ただし、どのヒトデでもできるわけではありません。
リンキア属など一部の種だけが、切り離された腕1本から体を丸ごと作り直します。多くの種は、体の中心にある盤(ばん)の一部が腕についていないと、全身の再生はできません。
腕を切り離すのはヒトデ自身
敵に襲われたとき、ヒトデは自分から腕を切り離します。これを自切(じせつ)といいます。
腕を1本置いていって、本体は逃げるという作戦です。切り口では、まず体液がもれないように傷がふさがれます。
切断からおよそ48時間で表面が新しい皮でおおわれ、そこから再生が始まります。
元の大きさに戻るまで1年以上
再生は3つの段階に分かれます。傷をふさぐ修復期、細胞が移動して神経や骨格の土台ができる初期再生期、組織や器官が本格的に作られる後期再生期です。
小さな腕の形が見えてくるのは、切断から3〜6か月後。元の大きさに追いつくまでには1年以上かかることもあります。
再生した腕はその後も生涯にわたって伸び続けるため、1本だけ短い個体は珍しくありません。
1本の腕から全身へ
再生力は種によって3段階に分かれます。体の半分以上が残っていて腕だけを生やし直すタイプ、中心の盤が残っていれば半分以下からでも全身を作れるタイプ、そして盤がまったくなくても全身を作れるタイプです。3つ目ができる種は、ごくわずかしかいません。
リンキア属は、切り離された腕1本から体全体を作り直せる数少ないヒトデです。長い腕1本の先に小さな腕が4本生えた姿は流れ星に似ているため、「コメット(彗星)」と呼ばれます。
この腕には、口も消化管もありません。中心の盤から切り離されているからです。
腕にたくわえた栄養で持ちこたえながら、海水に溶けた有機物を体の表面から取りこんでいると考えられています。リンキアは敵に襲われたときだけでなく、数を増やすためにも自分から腕を落とします。卵を使わない繁殖の一つの形です。
「切れば増える」は俗説
カキの養殖業者がヒトデを切って捨てたところ倍に増えてしまった、という話が広く語られています。ただし、確かな記録は見つかりません。
多くの種は中心の盤がなければ全身を再生できないため、切った断片がすべて新しい個体になるわけではないのです。1本の腕から全身を作れるのは、あくまで一部の種に限られます。
体のほとんどが「頭」だった
2023年11月、スタンフォード大学などの研究チームが学術誌ネイチャーに論文を発表し、ヒトデの体の見方が大きく変わりました。遺伝子の働きを調べると、頭を作る遺伝子が体じゅうで働いていた一方、胴体を作る遺伝子はほとんど見つからなかったのです。
研究を率いたローラン・フォルメリー氏は、ヒトデは胴体をまるごと欠いていて、海底を歩く頭と表現するのが一番近いと述べています。5本の腕は手足ではなく、頭の延長というわけです。
腕を捨てて逃げ、時間をかけて作り直す。ヒトデの再生力は万能ではなく、種類によって限界がはっきり分かれています。
水族館でヒトデを見かけたら、5本の腕の長さをくらべてみてください。1本だけ短ければ、それは再生の途中です。
参考にした資料