新しい名前は委員会が審査する、アイスランドの言葉を守る仕組み
アイスランドでは、子どもに新しい名前をつけるとき国の委員会に申請します。ただし審査されるのは、承認済みの名簿にない名前だけです。
名簿には約4,300の名前が並び、そこから選べば手続きは要りません。目的は、アイスランド語の文法を名前の中に残すことです。
1991年からある人名委員会
審査するのはマンナナヴナネヴンド、日本語でいう人名委員会です。1991年に設けられ、司法大臣が任命する3人で構成されます。
委員はアイスランド語委員会、アイスランド大学の哲学部と法学部からの推薦で選ばれ、任期は4年です。根拠となっているのは1996年の人名法で、2019年に改正されました。
名前をつけるまでの手続き
政府の公式案内によると、子どもは生後6か月までに名前をつける必要があります。持てる名前は3つまでです。
名簿にない名前を使いたい場合は委員会に申請し、手数料を払って審査を受けます。委員会の決定は、ほかの行政機関が覆すことはできません。
認められた名前は名簿に加えられ、以後は誰でも自由に使えるようになります。
審査で見られる3つの条件
第一に、アイスランド語の属格の語尾を付けられること、または昔から使われてきた名前であること。第二に、アイスランド語のつづりの決まりに合っていること。
第三に、本人が恥ずかしい思いをする名前でないことです。
属格が条件になるのには理由があります。アイスランドでは姓の代わりに、父や母の名前を属格に変えて「〜ソン(息子)」「〜ドッティル(娘)」を付けて名乗ります。
名前が属格に変化できないと、その人の子どもの名乗り方が作れないのです。文字の制限も同じ発想で、アイスランド語のアルファベットにない c、q、w、z は原則として使えません。
ブライルをめぐる裁判
規則が裁判で争われたこともあります。1997年生まれのブライル(Blær)は「そよ風」を意味する言葉ですが、当局は男性名だとして女性への登録を認めませんでした。
彼女は書類の上で「女の子」とだけ記されたまま育ちます。2013年1月、レイキャビク地方裁判所は男女どちらにも使える名前だと判断しました。
ノーベル文学賞作家ハルドル・ラクスネスが女性の登場人物にこの名を使っていたことが、根拠の一つでした。
委員会をなくす議論
この仕組みには批判もあります。2020年、当時の司法大臣が委員会の廃止法案を提出しました。
1925年から続く新しい家名の禁止も解く内容で、元委員長も賛成しました。一方で、外国語由来の名前が増えれば言語そのものが変わってしまう、という反対もありました。
法案は国会で一度議論されただけで先へ進まず、委員会は2026年現在も残っています。なお2019年の性自認に関する法律により、名前を性別で制限する扱いは撤廃されました。
役所が名前を審査すると聞くと窮屈に感じます。ただし狙いは、中世の物語を今の人がそのまま読めるほど変化の少ないアイスランド語を、名前の中に保つことです。
承認済みの名簿は誰でも見られる形で公開されています。北欧の名前に興味があれば、一度のぞいてみてください。
参考にした資料