緊急地震速報はなぜ揺れる前に届くのか P波とS波の速さの差
スマートフォンが突然けたたましく鳴り、その数秒後に部屋が揺れ始める。緊急地震速報を受け取ったことがある人なら、あの不思議な順番を覚えているはずです。地震はもう起きているのに、なぜ知らせのほうが揺れより先に届くのでしょうか。仕掛けは、地震の揺れが1種類ではないことにあります。
地震の波は2種類あり、届く順番が違う
地震が起きると、震源からは性質の違う波が同時に出発します。気象庁の説明では、先に届くのが「P波」で、伝わる速さはおよそ秒速7キロメートル。あとから届くのが「S波」で、速さはおよそ秒速4キロメートルですが、揺れは強くなります。大きな地震のとき、最初にカタカタと小さく揺れ、少し遅れてグラグラと大きく揺れた経験はないでしょうか。あの最初の小さな揺れがP波、建物に被害をもたらす強い揺れがS波です。
速いP波をつかまえて、遅いS波を先回りする
緊急地震速報は、震源近くの地震計がP波をとらえた段階で震源の場所と地震の規模を推定し、強い揺れであるS波が届く前に知らせるしくみです。
速さの差は1秒あたり3キロメートルほど。震源から離れているほどこの差は積み上がり、遠い場所ではP波とS波の到着に十数秒の開きが生まれます。その開きが、そのまま知らせを出せる時間になります。震源の推定から発表までの計算は、すべて自動で瞬時に行われます。気象庁は最初の1報を迅速さ優先で出し、その後はデータが集まるにつれて、数秒から1分程度の間に5回から10回ほど内容を更新していきます。
鳴る地震と鳴らない地震がある
すべての地震で警報音が鳴るわけではありません。気象庁によると、緊急地震速報(警報)が発表されるのは、最大震度5弱以上、または最大長周期地震動階級3以上と予想された場合です。さらに震度6弱以上などが予想されるときは、地震動の特別警報という位置づけになります。テレビやスマートフォンで一般に届くのは、この警報です。一方でマグニチュード3.5以上、最大予測震度3以上といった条件で出される「予報」もあります。こちらは主に鉄道の減速や工場の機器制御に使われています。
間に合わないこともある、という前提
このしくみには限界もあります。地震計がP波をとらえてから解析と伝達を終えるまでに数秒かかるため、内陸の浅い場所で地震が発生した場合など、震源に近い場所へは強い揺れの到達に原理的に間に合わないことがある、と気象庁自身が明記しています。つまり、震源の真上に近い人ほど速報の恩恵を受けにくいのです。逆に震源が遠ければ、揺れが来るまで余裕が生まれることもあります。速報が鳴らなかったから安全、鳴ったら必ず大きく揺れる、と単純に決めつけないほうがよいということになります。
鳴ったときにすることは、身の安全の確保ひとつ
気象庁が示す行動の基本は、あわてず、まず身の安全を確保することです。家の中なら頭を保護して丈夫な机の下など安全な場所に入り、あわてて外へ飛び出さない。そして無理に火を消そうとしないことも挙げられています。かつては「地震だ、まず火を消せ」と教えられましたが、現在の気象庁の案内では、揺れている最中に無理をして火に近づくことは勧められていません。エレベーターの中なら最寄りの階で停止させてすぐに降りる。車を運転中なら急ブレーキはかけず、ハザードランプで周囲に注意を促しながら、ゆるやかに速度を落とします。
数秒という時間は、あまりに短く感じます。それでも、机の下にもぐる、火から離れる、手すりをつかむ。その一動作にはじゅうぶんです。速報が鳴ったときに迷わず動けるかどうかは、鳴る前にどれだけ考えておいたかで決まります。
参考にした資料