鏡は左右じゃなく前後が逆だった?錯覚の正体
鏡が左右を逆にしている、というのは勘違いです。平面の鏡が反転させる向きはただ一つ、鏡の面に垂直な方向、つまり前と後ろだけです。
それでも左右が入れかわって見えるのは、私たちが鏡の中の像を自分と重ね合わせようとするからです。犯人は鏡ではなく、見ている側の頭の中にいます。
鏡が裏返しているのは奥行き
平面の鏡には、特別扱いされる向きが一つしかありません。鏡の面に垂直な方向です。
米カリフォルニア大学リバーサイド校が公開している物理学の解説ページも、平面鏡が区別するのはこの一方向だけだと説明しています。鏡に当たった光は、面に垂直な向きの成分だけを反転させて戻ってきます。
だから像は、上下でも左右でもなく、手前と奥が入れかわった姿になります。鏡は空間をぐるりと回しているのではありません。奥行きだけを裏返して返しているのです。
手を動かせば数秒で確かめられる
鏡の前で右手を横にすべらせてみてください。鏡の中の手も、同じ向きに動きます。
左右が逆になっているなら、像は反対方向へ動くはずです。ところが手をまっすぐ鏡へ突き出すと、像の手はこちら側へ向かってきます。
動きが逆さまになるのは前後だけ。米パデュー大学の物理実験デモでも、この違いが鏡の性質を示す例として使われています。
なぜ左右が逆に感じるのか
私たちは鏡の中の像を、振り向いてこちらを向いた人として読み取ってしまいます。人が振り向くときは、体を縦の軸で半回転させます。
すると相手の右手は、こちらから見て左側に来ます。鏡の像に同じ解釈をあてはめた瞬間、左右が入れかわったという答えが出てくるわけです。
英国の科学誌BBCサイエンス・フォーカスも、脳が像を頭の中で回してしまうことが原因だと説明しています。回す軸に縦が選ばれるのにも理由があります。
人の体は左右がよく似ていて、頭と足は似ていません。似ている側を軸にして重ねたほうが、ずれが小さくて済むのです。
なぜ上下は逆にならないのか
上下と前後には、はっきりした基準があります。上下は重力が決め、前後は自分が向いている方向が決めます。
左右はその二つを決めたあとに残る、最後の一本です。だから、ずれを引き受ける役が左右に回ってきます。
鏡の側に左右をえこひいきする性質はありません。証拠に、鏡を床に置いて上から見下ろせば、逆さまに見えるのは上下です。
天井にはった鏡でも同じことが起きます。鏡は自分が置かれた向きに垂直な一方向を裏返すだけで、上下か左右かを選んでいるわけではないのです。
鏡文字が裏返るのも同じ理由
紙に書いた文字を鏡にかざすと、裏返って読めます。これも鏡のせいではありません。
透明なシートに文字を書き、裏に白い紙を当てて鏡に向けると、鏡の中の文字は確かに裏返って見えます。ところが白い紙だけを外し、シートを透かしてそのまま見ると、文字は鏡の像と同じ向きに読めます。
反転など、はじめから起きていなかったのです。文字を裏返したのは、紙を鏡のほうへ回した自分自身でした。
今夜、洗面所の鏡の前で手を前後に動かしてみてください。横に動かした手は同じ向きに、前に出した手だけが逆向きに動きます。
逆さまになっているのが左右ではなく奥行きだと、十秒で自分の目で確かめられます。
参考にした資料