凍るような寒さを昆虫はどうやって生き抜くのか
冬を越す昆虫の戦略は、大きく二つに分かれます。体を凍らせないか、あえて凍らせるかです。
凍らせない側は体液に糖やアルコールをため込み、さらに氷の成長を止めるタンパク質まで作ります。アラスカにすむある甲虫の幼虫は、マイナス100度まで冷やされても一部が生き残りました。
凍らせない虫と、凍る虫
昆虫の寒さへの備えは、凍結回避型と凍結耐性型の二通りに整理されています。凍結回避型は、体液を最後まで凍らせないことに徹します。
凍結耐性型はその逆で、体が凍ることを前提にして、凍る場所と凍り方をコントロールします。「氷を防ぐ」という説明だけでは、後者の生き方は説明できません。
同じ冬を越すのに、正反対の解き方が用意されているわけです。
水は0度になっても凍らない
水は0度になった瞬間に凍るわけではありません。氷になるきっかけがなければ、0度を下回っても液体のままでいられます。
この状態が過冷却で、ついに凍り始める温度を過冷却点と呼びます。越冬する昆虫は、この過冷却点を自力で下げています。
秋になるとグリセロールやトレハロースといった成分を体液に高い濃度でため込み、凍り始める温度を引き下げていくのです。
氷にはりつく不凍タンパク質
糖やアルコールだけでは足りません。多くの越冬昆虫は、不凍タンパク質と呼ばれるタンパク質を作ります。
このタンパク質は氷の表面にはりつき、水分子がそれ以上結晶に加わるのを妨げます。産業技術総合研究所は2018年、不凍タンパク質の表面に氷とよく似た水分子のネットワークができていることを見つけ、氷へ素早く結合できる理由を分子レベルで説明しました。
同じ働きをするタンパク質は、1960年代後半に南極の魚の血液から初めて発見されたものです。その後、昆虫やキノコ、植物からも次々に見つかりました。
マイナス100度を耐えたアラスカの甲虫
極端な例が、アラスカ内陸部にすむヒラタムシの仲間(Cucujus clavipes puniceus)の幼虫です。2010年に発表された研究によると、冬の過冷却点は平均でマイナス35度からマイナス42度、最も低い個体でマイナス58度でした。
体液のグリセロール濃度は1リットルあたり4〜6モルに達し、体内の水分は夏の五分の一ほどまで減っていました。さらに冷やすと体液は結晶にならず、ガラスのように固まります。
この変化が起きる温度は平均でマイナス76度前後でした。マイナス100度にさらされた幼虫のうち、7パーセントが生き延びています。
濃縮した体液では凍る温度を約13度も引き下げる効果が測定され、これは生物で記録された最大値です。
あえて凍る道を選ぶ虫
凍結耐性型は、まったく逆の作戦をとります。北アメリカでセイタカアワダチソウの仲間に虫こぶを作るハエ(Eurosta solidaginis)の幼虫は、その虫こぶの中で冬を越します。
この幼虫は氷の核になる物質を体内に用意し、比較的高い温度のうちから凍り始めます。凍るのは細胞の外側だけです。
水が細胞の外へ移動していくため、細胞の中は濃くなって凍りにくくなります。幼虫はグリセロールに加えてソルビトールも作りためます。
一気に深く凍ると細胞が壊れます。先に穏やかな凍り方を起こしておくことで、その事態を避けているのです。
昆虫が冬を越す仕組みは、凍らせない工夫と、凍り方を選ぶ工夫の二本立てでした。不凍タンパク質の研究は、食品の冷凍や細胞の保存といった技術にも応用が期待されています。
冬に落ち葉をめくって動かない虫を見つけたら、そのまま静かに戻してください。死んでいるのではなく、春を待っている最中かもしれません。
参考にした資料
- Journal of Experimental Biology — Animal ice-binding (antifreeze) proteins and glycolipids: an overview with emphasis on physiological function
- Journal of Experimental Biology — Deep supercooling, vitrification and limited survival to –100°C in the Alaskan beetle Cucujus clavipes puniceus larvae
- 産業技術総合研究所 — なぜ不凍タンパク質は氷が成長するのを阻止できるのか