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ミントはなぜ口がひんやりする?脳の勘違いのしくみ

2026年7月 · 読了3分
ミントはなぜ口がひんやりする?脳の勘違いのしくみ

ミントのひんやり感は、口の温度が下がったから起きるのではありません。メントールという成分が、冷たさを感じ取る神経のセンサーを直接オンにしているのです。

このしくみが証明されたのは2002年でした。関連する一連の研究は、2021年のノーベル生理学・医学賞に選ばれています。

温度は下がっていない

ミントのガムやタブレットを口に入れると、冷たい風が通ったような感覚になります。ところが、このとき口の中の温度はほとんど変わりません。

メントールはハッカ(ミント)から得られる成分で、ガム、歯みがき粉、のどあめ、湿布など「ひんやりする」とうたう製品に広く使われています。ただしメントール自体に、物を冷やす力はありません。皮膚に塗っても、体温計の数字は動かないのです。

冷たさセンサー「TRPM8」

口や皮膚の神経の先には、TRPM8と呼ばれるタンパク質があります。温度がおよそ26度より下がると開き、「冷たい」という信号を脳へ送るセンサーです。

2002年、二つの研究チームがそれぞれ別々にこのセンサーを見つけました。片方はメントールを手がかりに、ラットの神経細胞から取り出しています。

TRPM8を持つ神経は少なく、顔や口を担当する三叉神経節でも、小さな感覚神経細胞の15パーセント未満にとどまります。

メントールは、このTRPM8にくっついてスイッチを直接開きます。温度は変わっていないのに、冷たさセンサーだけが「冷たい」と報告する状態です。

脳は届いた信号のとおりに判断するので、口の中が冷えたと感じます。

ガムのあと、空気まで冷たい理由

メントールの働きは、スイッチを一度押すだけではありません。TRPM8が反応し始める温度そのものを、高いほうへずらします。

ある実験では、その境目が25度から30度へ動きました。だからミントを口にしたあとに息を吸うと、いつもと同じ室温の空気がはっきり冷たく感じられます。

感じるのは冷たさだけで、口の中が傷むことはありません。実際の温度は動いていないからです。

逆向きの勘違いがトウガラシ

同じ勘違いは、熱さの側でも起きます。トウガラシの辛み成分カプサイシンが開くのは、TRPV1というセンサーです。

こちらは43度を超える熱で反応するしくみで、1997年にデビッド・ジュリアスらが特定しました。実際には熱くないのに口が燃えるように感じるのは、このためです。

辛さが味覚ではなく痛みや熱の感覚に分類されるのも、同じ理由によります。

50年越しで裏づけられた予想

メントールが冷たさの受容器に作用している、という予想自体は古く、1950年代にヘンゼルとゾッターマンが唱えていました。当時は仮説どまりでしたが、2002年のTRPM8発見でようやく証明されます。

温度と触覚のセンサーをめぐる一連の研究は、2021年のノーベル生理学・医学賞を受けました。台所の香辛料とガムが、体のしくみを解く手がかりになったわけです。

次にミントのガムを噛んだら、噛み終えたあとに大きく息を吸ってみてください。空気の温度は変わっていないのに、のどの奥まで冷たく感じるはずです。

その涼しさは口の中ではなく、脳の中で作られています。

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