生き物

ミツバチは言葉なしでどう花の場所を伝えるのか

2026年7月 · 読了3分
ミツバチは言葉なしでどう花の場所を伝えるのか

ミツバチは花を見つけると巣に戻り、お尻を振りながら8の字を描いて踊ります。この尻振りダンスには、花のある方向と距離が正確に組みこまれています。

踊りの意味を解読したオーストリアの動物行動学者カール・フォン・フリッシュは、その功績で1973年のノーベル生理学・医学賞を受けました。言葉を持たない虫が、体の動きだけで地図を渡しているのです。

近い花と遠い花で踊りが変わる

ミツバチのダンスは2種類あります。花が巣から50メートルほどの近さにあるときは、その場でぐるぐる回る円ダンスを踊ります。

これは近くに花があるという合図で、方向までは示しません。それより遠い花を見つけたときだけ、8の字を描く尻振りダンスに切りかわります。

境目はおよそ50から75メートルとされ、きっちり一線が引かれているわけではありません。8の字は、直進しながらお尻を振り、左へ回って戻り、もう一度直進して今度は右へ回る動きのくり返しです。この直進部分こそが情報の本体になります。

方向は太陽との角度で伝える

巣の中は真っ暗で、巣板は垂直に立っています。ミツバチはこの真上を太陽の方向に見立てて踊ります。

真上に向かって直進すれば、花は太陽と同じ方向にあるという意味です。花が太陽から右へ40度の位置にあるなら、真上から右へ40度傾けて直進します。

重力の向きを太陽に置きかえて角度を伝える、という仕組みです。

距離はお尻を振る時間で表す

直進しながらお尻を振る時間の長さが、そのまま距離を表します。ヨーロッパで飼われるカルニカ種を調べた研究では、100メートル先の花で約0.41秒、1.7キロ先で約2.20秒でした。

距離が伸びるほど時間の増え方はゆるやかになり、単純な比例ではありません。この比率はミツバチの種類によっても違います。

では距離そのものはどう測っているのでしょうか。答えは、目に流れる景色の速さです。

細いトンネルを通らせると景色が速く流れるため、ハチは実際より遠くまで飛んだと踊ります。

レーダーが決めた論争の決着

本当にダンスで場所が伝わっているのかは、長く論争の的でした。仲間は踊りではなく花の匂いをたどっているだけだ、という反論があったからです。

決着をつけたのは、踊りを見た働きバチに小さな電波の反射器を付け、レーダーで飛行経路を追った実験でした。ハチはダンスが示した方向へまっすぐ飛び、風で流されても進路を修正していました。

踊りの情報が実際に仲間の飛行を導いていることが、ここで確かめられたのです。

ダンスは学んで身につける

踊り方は本能だけで完成するわけではありません。2023年にサイエンス誌へ載った研究では、先輩の踊りを一度も見ないまま初めて踊ったハチは、角度が大きくずれた乱れたダンスになりました。

角度のずれは経験を積むうちに改善しましたが、距離の表し方のずれは生涯直りませんでした。ミツバチも人の赤ちゃんや小鳥と同じで、伝え方を先輩から学んでいるのです。

次に花のまわりを飛ぶミツバチを見かけたら、その先の巣で始まる報告会を想像してみてください。一匹が持ち帰った太陽の角度と飛行時間が、踊りとなって仲間の地図に書き足されていきます。

言葉を持たない生き物が、これほど正確な情報を渡し合っている例は多くありません。

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