科学

黄金比とは?1.618という数と、美しさの俗説

2026年7月 · 読了3分
黄金比とは?1.618という数と、美しさの俗説

黄金比は約1.618という数です。線の分け方として、古代ギリシャの数学書にはっきり定義されています。

ただし「人が最も美しいと感じる比」という有名な話のほうは、実験で裏づけが取れていません。数としての黄金比と、美の基準としての黄金比は分けて考える必要があります。

線を分ける決まった比

黄金比のもとになる考え方は「外中比」と呼ばれます。1本の線を長い方と短い方に分けたとき、全体と長い方の比が、長い方と短い方の比に等しくなる分け方です。

この条件を式にして解くと、(√5+1)÷2 という数が出てきます。小数で書くと1.6180339887…と、割り切れずに続く無理数です。

定義はユークリッドの『原論』第6巻にあり、正五角形や正十二面体を作図するために使われました。

「黄金」と呼ばれ始めたのは19世紀

ユークリッド自身は、この比を黄金とは呼んでいません。1509年ごろ、数学者ルカ・パチョーリが『神聖比例論』でこれを「神聖な比」として紹介しました。

「黄金分割」という言い方が印刷物に現れる最初期の例は、1835年に出たマルティン・オームの数学書の脚注です。定義から2000年以上たってからついた呼び名なのです。

1609年にはケプラーが、フィボナッチ数列の隣り合う数の比がこの値に近づくことを書き残しています。

あいまいなのは数ではない

数としての黄金比は正確に定義され、フィボナッチ数列との関係も証明されています。ゆらいでいるのはそこではありません。

「人が最も美しいと感じる」という部分だけが、裏づけの取れていない話です。

美の基準説の出どころ

始まりは1876年、心理学者グスタフ・フェヒナーの実験です。10種類の長方形を見せて最も好ましいものを選ばせたところ、黄金比に近い形に票が集まったと報告されました。

ところが、その後の追試がそろいません。1997年、ホルガー・ヘーゲ氏は条件を変えて3つの実験を行い、どの条件でも黄金比は好まれる比にならなかったと報告しています。

論文の題は「黄金分割仮説――その最後の葬儀」でした。

神殿も貝殻も後づけの話

1992年、数学者ジョージ・マーコウスキー氏が「黄金比についての誤解」という論文を発表しました。数学的な性質は正しく語られているのに、美術や建築の分野で語られる内容は誤りか、大きく誤解を招くものだ、という結論です。

パルテノン神殿やギザの大ピラミッドは資料ごとに寸法が違い、著者によって測る点がばらばらだと指摘しています。オウムガイの殻も同じです。

2018年にクリストファー・バートレット氏がスミソニアン協会所蔵の80個を測ると、比の平均は1.310でした。1999年に数学者クレメント・ファルボ氏が測ったときも1.24から1.43の範囲で、1.618には届いていません。

自然界で確かめられている例

では自然界に黄金比はないのか。あります。

茎に葉がつく角度、いわゆる葉序です。葉が90度ずつ、あるいは180度ずつずれてつく植物もありますが、らせん状に葉をつける植物では、1枚ごとのずれが約137.5度に近い値になります。

これは円を黄金比で二つに分けたときにできる角で、黄金角と呼ばれます。この角度だと上の葉が下の葉の真上に重なりにくく、光を受け取りやすいという説明が研究されています。

黄金比は、数としては2300年前の定義から一度も動いていません。ゆらいでいるのは「美しい」のほうです。

1.6という数字を見かけたら、それがどこからどこまでを測った値なのかを確かめてみてください。

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