雑学

放たれた牛と走るスペインの伝統、その勇気とは

2026年7月 · 読了2分
放たれた牛と走るスペインの伝統、その勇気とは

スペイン北部パンプローナの牛追いは、毎年7月7日から14日まで、毎朝8時ちょうどに始まります。走る距離は848.6メートル、駆け抜ける時間はおよそ2分。

牛が時速24キロほどで石畳の道を走り、その前を人々が逃げます。もとは度胸試しではなく、牛を闘牛場まで運ぶための仕事でした。

848.6メートルを約2分で

コースはサント・ドミンゴの囲いから始まり、市庁舎前の広場、メルカデレス通り、エスタフェタ通りを抜けて闘牛場で終わります。全長848.6メートルという細かい数字は、パンプローナ市が公表しているものです。

毎朝6頭の牛が放たれ、群れをまとめる去勢牛と牛飼いも一緒に走ります。

牛を運ぶ作業から祭りへ

中世には、馬に乗った男たちが牛の群れを町の中心へ追い立てていました。闘牛場まで牛を届けるための、ただの仕事です。

ところが16世紀になると、地元の若者や肉屋が牛の前を走り始めます。付き添いのつもりが、先を走ること自体の度胸試しへ変わっていきました。

今のコースが固まったのは18世紀の終わりごろです。

牛追いは、サン・フェルミン祭という大きな祭りの一部です。祭りは7月6日の正午、市庁舎から打ち上げられる「チュピナソ」という花火で幕を開け、14日の深夜まで続きます。

聖フェルミンをたたえる行事は、もともと10月10日に行われていました。それが1591年に7月7日へ移されます。

天候がよく、夏に開かれる市とも重なる時期だったからです。牛追いの初日が7月7日なのは、この引っ越しの名残です。

前夜と直前の静かな時間

本番の裏には、二つの静かな行事があります。ひとつは前夜の「エンシエリージョ」。

翌朝に走る牛を、別の囲いからサント・ドミンゴの囲いまで約440メートル、物音を立てずに移します。もうひとつは朝8時の直前です。

走者たちはサント・ドミンゴの坂で、聖フェルミンに身の安全を願う「カポティコ」という短い歌を唱えます。走り出す前の数分間だけ、通りは静まり返ります。

世界に広めた一冊の小説

この祭りが世界に知られたきっかけは、作家アーネスト・ヘミングウェイでした。1923年に初めてパンプローナを訪れ、1926年の小説『日はまた昇る』で祭りの熱気を描きます。

その後も1959年まで通い続けました。地元の行事が世界の観光行事へ変わった転機が、この一冊です。

走れるのは18歳から

参加に申し込みは要りませんが、18歳以上であることが条件です。警察と牛飼いの指示に従うといった決まりがあり、破れば罰金。

沿道は開始の90分前に封鎖されます。それでもけが人は年に200〜300人出ており、多くは転倒による打撲です。

記録が残る1910年以降、牛追いで亡くなった人は16人。直近は2009年、首を突かれて亡くなった27歳の男性でした。

牛の前を人が走り始めてから、400年以上が過ぎました。危険を承知で走るか、柵の外から眺めるか。

パンプローナを訪ねるなら、8時の合図が鳴る前に決めておくことになります。

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