町が真っ赤に染まる?スペインのトマト投げ祭り
スペイン東部の小さな町が、毎年たった1時間だけ真っ赤に染まります。トマト投げ祭り「ラ・トマティーナ」には世界中から2万人が集まり、120トンを超える完熟トマトが飛び交います。
よく語られる「けんかから始まった」という起源は、実は記録がはっきり残っていません。確かめられている事実をたどりながら、この祭りの中身を見ていきます。
8月最終水曜日、たった1時間
舞台はバレンシア州のブニョール、人口およそ9千人の町です。開かれるのは毎年8月の最終水曜日で、2026年は8月26日にあたります。
トラックで運び込まれるトマトはおよそ120トンから150トンで、2015年には約145トンが使われました。投げ合いの前には「パロ・ハボン」という余興があります。
石けんを塗ったつるつるの柱によじ登り、てっぺんの生ハムを取り合うものです。そして号砲を合図に投げ合いが始まり、2発目の号砲で終わります。長いようで、その間はわずか1時間です。
起源は「けんか」なのか
始まりは1945年8月とされます。祭りの公式サイトは、「巨人と大頭」の行列に若者が飛び入りし、転ばされた参加者が怒って周りに当たり散らし、近くの八百屋の台からトマトが飛んだ、と説明しています。
ただし当時は書き残されず、話は口伝えで伝わってきました。「けんかが始まり」という説明は、確定した史実ではなく諸説のひとつです。
下手な楽団への抗議だった、トラックからトマトがこぼれたのが発端だった、といった別の説も語られています。
一度は禁止された祭り
この祭りは1950年代に当局から禁止されます。宗教的な意味を持たない騒ぎとみなされたためで、それでも参加した住民は逮捕されることもありました。
転機は1957年です。住民は大きなトマトを納めた棺を担ぎ、楽隊を従えて「トマトの葬列」を行って抗議しました。
この訴えが実を結び、祭りは公認されます。2002年にはスペイン政府から、国際的な観光価値を持つ祭りに指定されました。
投げる前に必ず潰す
乱暴に見えて、ルールは細かく決められています。トマトは必ず手で潰してから投げること。
瓶や硬い物を持ち込まないこと。トマトを運ぶトラックには近づかないこと。
2発目の号砲が鳴ったら投げるのをやめること。潰してから投げるのは、丸ごとのトマトが当たるとけがにつながるからです。
使われるのは、販売や加工に回せないほど熟したトマトです。参加者の数も、2013年からチケット制になり2万人までに制限されました。
人口9千人の町に人が集まりすぎないための線引きです。
町はなぜすぐ元に戻るのか
1時間後、通りはトマトの果肉で埋め尽くされます。ところが片づけは早く、放水で洗い流すと路面はあっさりきれいになります。
理由はトマトそのものにあります。トマトに含まれる酸が汚れを浮かせるため、洗い流したあとの石畳が祭りの前より白く見えることさえあるのです。
参加者のほうは、近くの川や仮設のシャワーで体を洗い流します。
ラ・トマティーナは、勢いだけの騒ぎではありません。1時間という区切り、潰してから投げる決まり、2万人という定員。
80年かけて整えられた約束事があるからこそ、町は毎年安心して真っ赤になれます。行くなら8月最終水曜日、チケットの手配は早めにどうぞ。
参考にした資料