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シャチの鳴き声には方言がある、知能の高さの秘密

2026年7月公開 · 2026年9月更新 · 読了7分
シャチの鳴き声には方言がある、知能の高さの秘密

シャチの鳴き声は群れごとに違い、研究者はこれを比喩ではなく「方言」という用語で呼んでいます。方言は生まれつきのものではなく、子どもが母親や群れの仲間から聞いて覚えるものです。

アメリカ海洋大気庁(NOAA)も、シャチの声は「集団ごとに固有で、学習によって文化的に受け継がれる」と説明しています。声だけでなく狩りのやり方も群れごとに受け継がれ、それぞれの文化になっています。この記事では、方言の中身・覚え方・暮らし方との関係、そしてシャチの知能について順に説明します。

シャチが出す3種類の音

シャチが出す音は大きく3つに分かれます。周囲の様子や獲物を探るクリック音、ホイッスル(口笛のような音)、そして仲間とやり取りするパルス状のコールです。

クリック音は、音を出して返ってくるこだまで周りを探るエコーロケーションに使われます。暗い海や濁った水の中でも、獲物の位置や形をつかめます。

方言の正体は3つめのコールです。コールは決まった型を持つ声で、同じ群れのシャチは同じ型を繰り返し使います。群れのまとまりを保ち、どの家族の一員かを示す名札の役目を果たしています。

1つの群れが7〜17種類の声を持つ

カナダの研究者ジョン・フォードは1991年、ブリティッシュコロンビア沿岸のシャチを調べた論文を発表しました。魚を食べるレジデント型では、1つの群れが7〜17種類、平均11種類のコールを持ちます。

フォードは、レパートリーの一部を共有する群れの集まりを「音響クラン」と名づけました。同じクランの群れ同士は似た声を使い、クランが違えば1種類も共有しません。

カナダ西岸に暮らすノーザン・レジデントと呼ばれる集団は、A・G・Rの3つのクランに分かれています。2022年の時点で、3つのクランを合わせて341頭でした。その南側、アメリカとカナダの国境付近に暮らすサザン・レジデントは、J・K・Lの3つの群れからなります。アメリカで絶滅危惧種に指定されていて、2025年7月の調査では74頭しかいませんでした。

ノーザンとサザンは、同じレジデント型でも声がはっきり違います。人間でいえば、同じ国の中で地方ごとに言葉が違うのに近い状態です。北太平洋以外でも方言の研究は進んでいて、南極のマクマード湾のシャチからは28種類の複雑な声が記録されています。

声は母親から覚える

子どもは母親のそばで過ごすうちに、家族のコールを覚えます。NOAAによれば、シャチの子は少なくとも生後2年ほど母親と密着して過ごし、1年以上乳を飲みます。その間に、食べ物のありかや狩りの手順も学びます。

社会の最小単位は、母親とその子孫からなるマトリラインです。それが集まってポッド(群れ)、さらにクランという入れ子構造になっています。1つのポッドは、血のつながった数頭から20頭以上で構成されます。レジデント型では、息子も娘も一生母親のそばを離れません。家族がばらばらにならないので、声の型も世代を超えてそのまま残ります。

NOAAによれば、メスの寿命は平均50年、長いと90年に達します。1頭の母親が何十年もかけて、子や孫に同じ声を伝えていくことになります。

方言は相手選びの目印にもなる

方言は、家族を見分けるだけでなく、交尾の相手を選ぶときにも役立っていると考えられています。バンクーバー水族館のランス・バレット=レナードは、ノーザン・レジデントの父親をDNAで調べました。

その結果、交尾の多くは違うクランのあいだで行われていて、同じマトリラインの中での交尾は見られませんでした。同じクランの群れどうしは血縁が近いので、声が大きく違う相手を選べば近親交配を避けられます。

研究者は、シャチが声の違いから相手との血のつながりを判断していると見ています。反対に、サザン・レジデントは3つの群れがすべて1つのクランに属しています。声の違いが小さい分、ノーザン・レジデントより近親交配が起きやすいことが指摘されています。

声を「学ぶ」と分かった証拠

方言が学習によるものだと言えるのは、シャチが新しい音をまねて覚えられることが確かめられているからです。

2006年の学術誌「Biology Letters」の報告に、群れからはぐれてカナダのヌートカ湾で暮らしていた若いシャチ(L98、愛称ルナ)の例があります。このシャチは、カリフォルニアアシカの鳴き声によく似た「ほえ声」を水中で出していました。記録されたほえ声は39回。周りにいたアシカの声を覚えたと考えられています。

L98は、自分の家族の声の使い方も変わっていました。S1と呼ばれる型のコールが、L98の声では50%を占めたのに対し、生まれた群れであるLポッドでは0.04%しかありませんでした。仲間から離れると、声の使い方まで変わっていくことを示す例です。

2018年には、フランスの水族館で飼育されているメスのシャチ「ウィキー」が、英語の「ハロー」「バイバイ」などをまねたという研究が発表されました。スペインのマドリード・コンプルテンセ大学のホセ・アブラムソンらによるもので、ほかの群れのシャチの声もまねています。ただし、まねができることと意味を理解していることは別で、この実験でも言葉の意味は教えていません。

よく鳴く群れと、ほとんど鳴かない群れ

北太平洋のシャチは、食べ物でいくつかのタイプに分かれます。代表的なのが、サケなど魚を食べるレジデント型と、アザラシなど海の哺乳類を襲うビッグス型(トランジェント)です。沖合には、サメなどの魚を食べるオフショア型もいます。

レジデント型とビッグス型の違い(NOAA Fisheries、Wikipediaより)
項目レジデント型ビッグス型
主な獲物サケなどの魚アザラシなどの海の哺乳類
狩りの間の声さかんに鳴き交わすほとんど声を出さない
その理由魚はシャチの声をよく聞き取れない獲物の哺乳類はシャチの声をよく聞き取れる

魚はシャチの声をよく聞き取れないため、レジデント型は遠慮なく鳴き交わします。一方のビッグス型は、獲物である哺乳類に音を聞きつけられてしまうため、狩りの間はほとんど声を出しません。

ビッグス型がよく鳴くのは獲物を仕留めた後です。方言の使い方そのものが、その群れの暮らし方とセットで受け継がれています。

狩りの手口も群れごとに違う

ノルウェー沖の群れは、泡を吐いてニシンを球状に追い込み、尾びれで叩いて一度に最大15匹を気絶させます。カルーセル・フィーディングと呼ばれる方法です。

アルゼンチンのパタゴニア沿岸やインド洋のクローゼー諸島の群れは、波打ち際にわざと乗り上げてアザラシを捕らえます。座礁の危険と隣り合わせの技で、若いシャチが身につけるには何年もの練習が必要です。

同じ種でありながら、その群れにしかない方法です。声の方言と同じく、狩りの技も親から子へ教え伝えられています。こうした学習を支える土台として、シャチは海の哺乳類のなかで2番目に重い脳を持つことも知られています。

よくある疑問

シャチの方言は人間の言葉と同じですか?
同じではありません。コールは群れの一員であることを示す合図で、単語や文法を持つことは確かめられていません。共通しているのは、生まれつきではなく周りの声を聞いて覚える、という点です。
シャチは人の言葉をしゃべれますか?
音をまねることはできます。2018年の研究では、飼育されているシャチが「ハロー」などの英語をまねました。ただし意味を理解して話しているわけではありません。
シャチは頭がいいのですか?
海の哺乳類で2番目に重い脳を持ち、声や狩りの技を仲間から学ぶ力があります。群れごとに違う狩りの方法が親から子へ受け継がれていることは、その学習能力の表れです。

まとめ

シャチの方言は、群れごとに決まった型を持つコールのことです。1つの群れが7〜17種類のコールを持ち、クランが違えば1種類も共有しません。子どもは母親のそばで声を覚え、狩りの技も同じように受け継ぎます。アシカや人の声をまねた例から、シャチが声を学べることも分かっています。シャチの声を聞く機会があったら、それがどの海のどの群れの録音なのかまで確かめてみてください。

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