シャチの鳴き声には方言がある、知能の高さの秘密
シャチの鳴き声は群れごとに違います。研究者はこれを比喩ではなく「方言」という用語で呼んでいます。
生まれつき備わっているものではなく、子どもが母親や群れの仲間から聞いて覚えるものです。狩りのやり方も同じように受け継がれ、群れごとの文化になっています。
方言をつくるのは3種類のうち1つ
シャチが出す音は大きく3つに分かれます。周囲の様子や獲物を探るクリック音、ホイッスル、そして仲間とやり取りするパルス状のコールです。
方言の正体はこのコールで、アメリカ海洋大気庁(NOAA)は「群れごとに固有で、学習によって受け継がれる」と説明しています。群れのまとまりを保ち、どの家族の一員かを示す名札の役目を果たしています。
1つの群れが7〜17種類の声を持つ
カナダの研究者ジョン・フォードは1991年、ブリティッシュコロンビア沿岸のシャチを調べた論文を発表しました。魚を食べるレジデント型では、1つの群れが7〜17種類のコールを持ちます。
フォードは、レパートリーの一部を共有する群れの集まりを「音響クラン」と名づけました。同じクランの群れ同士は似た声を使い、クランが違えば1種類も共有しません。
声は母親から覚える
子どもは母親のそばで過ごすうちに、家族のコールを覚えます。NOAAによれば、シャチの子は少なくとも生後2年ほど母親と密着して過ごし、その間に食べ物のありかや狩りの手順も学びます。
社会の最小単位は母親とその子孫からなるマトリラインで、それが集まってポッド(群れ)、さらにクランという入れ子構造になっています。レジデント型では、息子も娘も一生母親のそばを離れません。
よく鳴く群れと、ほとんど鳴かない群れ
北太平洋のシャチは食べ物で大きく分かれます。サケなど魚を食べるレジデント型と、アザラシなど海の哺乳類を襲うビッグス型(トランジェント)です。
魚はシャチの声をよく聞き取れないため、レジデント型は遠慮なく鳴き交わします。一方のビッグス型は、獲物である哺乳類に音を聞きつけられてしまうため、狩りの間はほとんど声を出しません。
よく鳴くのは獲物を仕留めた後で、水面での活動に合わせて声を交わします。方言は、その群れの暮らし方とセットで受け継がれているのです。
狩りの手口も群れごとに違う
ノルウェー沖の群れは、泡を吐いてニシンを球状に追い込み、尾びれで叩いて一度に最大15匹を気絶させます。カルーセル・フィーディングと呼ばれる方法です。
アルゼンチンのパタゴニア沿岸の群れは、波打ち際にわざと乗り上げてアザラシを捕らえます。座礁の危険と隣り合わせの技で、母親が何年もかけて子に教え込みます。
同じ種でありながら、その群れにしかない方法なのです。こうした学習を支える土台として、シャチは海の哺乳類のなかで2番目に重い脳を持つことも知られています。
シャチの声を聞く機会があったら、それがどの海のどの群れの録音なのかまで確かめてみてください。種類が同じでも、育った群れが違えば聞こえてくる音は別物です。
参考にした資料