卵は加熱するとなぜ固まる?タンパク質の変化のしくみ
卵が熱で固まるのは、丸まっていたタンパク質がほどけて、たがいに絡み合うからです。変化が始まる温度は、およそ60℃。
一度ほどけて絡んだひもは、冷やしても元の形には戻りません。水は何度熱しても固まらないのに卵だけが固まる理由は、この一点にあります。
生卵のタンパク質は毛糸玉
生の卵の中で、タンパク質は一本の長いひもが小さく折りたたまれた、毛糸玉のような姿で浮かんでいます。ひもの正体は、アミノ酸が数珠のようにつながったものです。
卵白ではオボアルブミンという種類がいちばん多くを占めます。毛糸玉どうしはくっつく場所がなく、水の中をばらばらに漂っています。
生卵がさらさらの液体でいられるのは、そのためです。
変化が始まるのは約60℃
ほどける瞬間は、赤外線を使うと数値で追えます。島津製作所が卵白を40℃から100℃まで10℃きざみで加熱した測定では、60℃を境にタンパク質の形が崩れ始めました。
らせん状に巻いた部分は30.3%から15.1%へと半分以下に減り、代わりに平たく伸びた部分が37.9%から47.6%へ増えています。毛糸玉がほどけ、ひもがまっすぐ伸びていく変化が、そのまま数字に表れた形です。
ほどけたひもが網を作る
ほどけたひもは、それまで内側に隠れていた面が外に出ます。その面が別のひもの同じ部分とくっつき、あちこちに結び目ができます。
無数の結び目が網の目を作ると、あいだに水を抱え込んだまま全体が動けなくなる。これが「固まる」の正体、タンパク質の網です。
透明だった白身が白く濁るのも、この網のしわざです。生のうちは光がまっすぐ通り抜けますが、網ができると光があちこちで散らばり、白く見えます。
焼きすぎた卵焼きがパサつくのも同じ理由です。網が締まりすぎて、抱えていた水を外へ押し出してしまいます。
白身と黄身では固まる温度が違う
同じ卵でも、白身と黄身は別々の温度で固まります。日本化学会の解説によると、黄身が固まるのは65〜70℃。
いっぽう白身が完全に固まるには、80℃近くが必要です。温泉卵は、この差を突いた料理です。
65〜70℃の湯に卵を長い時間つけておくと、黄身は固まり、白身はとろりとしたまま残ります。ゆで卵と温泉卵を分けているのは、ゆでる長さではなく湯の温度でした。
一度固まると戻らない
ゆで卵を冷やしても、生卵には戻りません。ほどけて絡み合ったひもは、冷ましても元の毛糸玉に折りたたまれ直せないからです。
ただし2015年、この常識に例外が生まれました。カリフォルニア大学アーバイン校とオーストラリアのフリンダース大学の研究チームが、90℃で20分ゆでた卵白から、リゾチームというタンパク質を元の形に戻すことに成功しています。
固まりを薬品で溶かし、渦を作る装置で強い流れをかけて、ほどき直す方法でした。狙いは料理ではなく、薬などに使うタンパク質を安く作ることです。
明日の目玉焼きは、白身が透明から白へ変わる瞬間を見てみてください。フライパンの上では、目に見えない毛糸玉が一斉にほどけ、たがいに絡み合っています。
火を少し弱めれば、まだ半分だけほどけた途中の状態も味わえます。
参考にした資料