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玉ねぎを切るとなぜ泣く?身を守る化学トリック

2026年7月 · 読了3分
玉ねぎを切るとなぜ泣く?身を守る化学トリック

玉ねぎを切ると泣くのは、切られた瞬間に2つの酵素が働き、目を刺激するガスができるからです。このガスはプロパンチアール-S-オキシドと呼ばれ、目の表面で神経を刺激します。

丸ごとの玉ねぎがにおわないのは、材料と酵素が別々の場所にしまわれているからです。そして仕組みが本当に分かったのは、意外にも2000年代に入ってからでした。

切られるまで材料と酵素は別々

玉ねぎの細胞には、催涙成分のもとになる硫黄をふくむ成分(イソアリインなど)と、それを分解する酵素アリイナーゼが入っています。ただし両者は細胞の中の別々の区画にしまわれていて、ふだんは出会いません。

包丁が細胞を壊すと仕切りがなくなり、一気に混ざり合います。玉ねぎが切られたときだけ刺激を出すのは、このためです。

虫や動物にかじられたときにだけ働く、身を守るしくみだと考えられています。

2段階の反応でガスができる

反応は2段階です。まずアリイナーゼが、もとの成分を1-プロペニルスルフェン酸という不安定な物質に変えます。

次に催涙因子合成酵素(LFS)がそれを組みかえ、催涙成分プロパンチアール-S-オキシドが生まれます。なぜ酵素が2つも要るのか。

スルフェン酸は、放っておくと別の物質に変わってしまうほど不安定だからです。LFSはその一瞬をとらえ、反応を涙が出る方向へ振り向けます。

できた催涙成分は常温で気体になりやすく、まな板の上から立ちのぼって顔に届きます。

目が涙を出すまで

ガスが目に届くと、角膜の表面の水分と反応し、刺激の強い物質に変わります。これを角膜の神経にあるTRPA1(ティーアールピーエーワン)という受容体が受け取ります。

ワサビの刺激を感じ取るのと同じ受容体です。脳は「痛い」「異物が入った」と受け取り、洗い流すために涙を出します。

つまり涙は、目が傷つけられた結果ではなく、目を守るための反射です。

仕組みが分かったのは2002年

長いあいだ、催涙成分はアリイナーゼの反応から自然にできる副産物だと考えられていました。これをくつがえしたのが、ハウス食品の研究チームです。

2002年、専用の酵素であるLFSの存在を突きとめ、科学誌「ネイチャー」に発表しました。この研究は2013年のイグノーベル化学賞を受けています。

2019年には東京大学などのチームが、LFSが働く詳しい仕組みを解明しました。応用も進み、LFSの働きを抑えた涙の出ない玉ねぎ「スマイルボール」が2015年に発売されています。

涙を減らす切り方と、効かない俗説

効くのは3つです。第一に、切る前に冷蔵庫でよく冷やすこと。

酵素の働きは温度が低いと鈍り、ガスも舞い上がりにくくなります。第二に、よく切れる包丁を使うこと。

つぶれる細胞が減れば、出るガスも減ります。第三に、換気扇の下で切るか、ゴーグルを使うこと。

ガスを目に届かせない方法がいちばん確実です。一方、ガムを噛む、口に水を含むといった話は広く語られていますが、裏づけのない俗説です。

刺激を受けているのは口や鼻ではなく目なので、口の中を変えても届くガスは減りません。

玉ねぎの涙は、植物が身を守るために備えた化学の仕掛けでした。次に泣かされたときは、冷蔵庫で30分ほど冷やしてから、よく切れる包丁で切ってみてください。

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