玉ねぎを切るとなぜ泣く?身を守る化学トリック
玉ねぎを切ると泣くのは、切られた瞬間に2つの酵素が働き、目を刺激するガスができるからです。このガスはプロパンチアール-S-オキシドと呼ばれ、目の表面で神経を刺激します。
丸ごとの玉ねぎがにおわないのは、材料と酵素が別々の場所にしまわれているからです。そして仕組みが本当に分かったのは、意外にも2000年代に入ってからでした。
切られるまで材料と酵素は別々
玉ねぎの細胞には、催涙成分のもとになる硫黄をふくむ成分(イソアリインなど)と、それを分解する酵素アリイナーゼが入っています。ただし両者は細胞の中の別々の区画にしまわれていて、ふだんは出会いません。
包丁が細胞を壊すと仕切りがなくなり、一気に混ざり合います。玉ねぎが切られたときだけ刺激を出すのは、このためです。
虫や動物にかじられたときにだけ働く、身を守るしくみだと考えられています。
2段階の反応でガスができる
反応は2段階です。まずアリイナーゼが、もとの成分を1-プロペニルスルフェン酸という不安定な物質に変えます。
次に催涙因子合成酵素(LFS)がそれを組みかえ、催涙成分プロパンチアール-S-オキシドが生まれます。なぜ酵素が2つも要るのか。
スルフェン酸は、放っておくと別の物質に変わってしまうほど不安定だからです。LFSはその一瞬をとらえ、反応を涙が出る方向へ振り向けます。
できた催涙成分は常温で気体になりやすく、まな板の上から立ちのぼって顔に届きます。
目が涙を出すまで
ガスが目に届くと、角膜の表面の水分と反応し、刺激の強い物質に変わります。これを角膜の神経にあるTRPA1(ティーアールピーエーワン)という受容体が受け取ります。
ワサビの刺激を感じ取るのと同じ受容体です。脳は「痛い」「異物が入った」と受け取り、洗い流すために涙を出します。
つまり涙は、目が傷つけられた結果ではなく、目を守るための反射です。
仕組みが分かったのは2002年
長いあいだ、催涙成分はアリイナーゼの反応から自然にできる副産物だと考えられていました。これをくつがえしたのが、ハウス食品の研究チームです。
2002年、専用の酵素であるLFSの存在を突きとめ、科学誌「ネイチャー」に発表しました。この研究は2013年のイグノーベル化学賞を受けています。
2019年には東京大学などのチームが、LFSが働く詳しい仕組みを解明しました。応用も進み、LFSの働きを抑えた涙の出ない玉ねぎ「スマイルボール」が2015年に発売されています。
涙を減らす切り方と、効かない俗説
効くのは3つです。第一に、切る前に冷蔵庫でよく冷やすこと。
酵素の働きは温度が低いと鈍り、ガスも舞い上がりにくくなります。第二に、よく切れる包丁を使うこと。
つぶれる細胞が減れば、出るガスも減ります。第三に、換気扇の下で切るか、ゴーグルを使うこと。
ガスを目に届かせない方法がいちばん確実です。一方、ガムを噛む、口に水を含むといった話は広く語られていますが、裏づけのない俗説です。
刺激を受けているのは口や鼻ではなく目なので、口の中を変えても届くガスは減りません。
玉ねぎの涙は、植物が身を守るために備えた化学の仕掛けでした。次に泣かされたときは、冷蔵庫で30分ほど冷やしてから、よく切れる包丁で切ってみてください。
参考にした資料